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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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レイプ(仮) 二章 1

 酷いありさま、この一言に尽きた。まるで生活感の欠片もないほどに、小奇麗に整理整頓されたリビング。淡いグリーンのカーテンが閉じられている、隙間なくビッチリと。簡素な家具、部屋の角からローボードが対にあり、その角には液晶TV。黒の薄い絨毯、無地。アクリルの低いテーブル、まだ湯気が立つ丼鉢、三分の一ほど残っているガラスコップ。非常に無機質な印象を受けた。
 テーブルの横手にヴィトンやディ・オールといったブランド物の紙袋が四つ、並んでいた。ボストンバッグほどたっぷりと物が入る紙袋の中に、黒い不透明なビニール袋が入っていた。各一つづつ、括り目が顔を覗かせている。その中の、ヘルメスの紙袋に入っているビニール袋が目に留まった。
 エメラルドグリーンの防水加工されたエルメスの紙袋から飛び出している黒のビニール袋、内側から腕時計が浮き出していた。ビニールを押し付け、透けていた時計はセイコーの腕時計。セイコー製は正確だよ、と時間にルーズな旦那にプレゼントした時計だった。
 その時計だけだったら、それでよかった。他にも考えようがあった。しかし、毛が横に生え揃った腕もみえたのだ。手の甲が透けて、しっかりと、時計をはめたそれを目の当たりにした。その奥に、透明度が減少して、みえづらくなっているが、顔面、頭部、のようなものがわかった。わかってしまった。目が絡《あ》ってしまった。
 う。四つになった旦那だ。
 竦む。悄然と身体が竦んだ。膝が崩れ、尻餅をついた。おしっこが洩れた、洩れたというよりも全身は脱力して、勢いに任せておしっこが吹いた。黄ばんだお尻が熱い、ジンとする。動けずに居ると、次第に冷めてきた。
 その時、背後から暖かい胸で抱きしめられた感触があった。はっとして振り向く、そしてすぐに、違うと気付いた。誰も居ない、居るはずがない。実際に感触があった訳ではない、押し殺していた過去のワタシが感触を蘇えられたのだ。その感触、あらら……洩らしちゃったね、大丈夫だよ、と祐子に首元で囁かれた感触、息遣いも蘇っていた。
「嘘よ、祐子、これって、ホントなの?」
 私は、奥底から、悲鳴をあげた。
 過去の記憶が蘇り、ワタシと一つになった瞬間、悲痛な叫びを搾り出していた。よみがえってきた映像、部屋の中央で倒れた人間、背中に包丁が刺ささっている。うつ伏せに転がる人間の背中に、直立して包丁が。
 ここにきて、初めて、泣いた。号泣。気が違ったように奇声を張りあげた、純粋な子供のように、わーと。大玉の涙が際限なく溢れてくる。体を寝かし、太ももを寄せ、腕の内側で目を擦る。自己を抑える包丁は、もうない、祐子が一緒に持っていった。旦那も既に失い、そこにはいるけれど、もうかえってはこない。
 でも、いまさら込み上げてきた涙はこんな惨劇のためじゃないんだ、原因はそうじゃない。
 私が、ワタシが、わたしが悪い。結局、わたしの弱さが、都合のよいわたし自身が、このような事態を招いたんだ。わたしの身勝手さに頭がカッと熱くなり、涙が噴き出した。祐子にも原因はあるのかもしれない、旦那にもあるかもしれない。でも、それすらもわたしが引き起こした要因なのだ。
 祐子と教室での出来事があってから、祐子との記憶は抹消された。都合の悪い箇所は全て、ワタシと一緒に殺した。あの時、祐子に告白されたことも、意識が飛んで机の中に入っていたカッターナイフで刺したことも、そのまま逃げて、私の中で教室での出来事が無かったことになったことも。ワタシと一緒に押し殺した。いまのわたしも殺してやりたい。
 祐子がいっていた、ワタシと二回逢ったと。今日の私で三回目になると、そういっていた。一度目は、四つになった旦那ではなく、高校を出てから少し経った頃、彼氏が出来てから数ヶ月後、祐子と再会。
 別れ話。彼氏からの別れ話が祐子を呼び寄せ、再会させた。


 ☆


 高校を卒業してから大学へ通っていた。祐子は就職組みだった。ワタシは近くの私立大学に通いながらバイトをしていた。特別なにか興味の湧く職種ではなく、ただのコンビニの店員だった。祐子は、どこか業界の中堅会社で事務員をやっている、と友人経由で聞いたことがあった。
 祐子とは卒業以来、連絡を取っていなかった。いや、あの教室のことは忘却の彼方へ過ぎ去っていたが、そうではなく、ただ祐子とは在学中に引っ付いて離れてしたものだから、何気に連絡を取らずじまいだった。決して深層心理に教室での出来事が無い、とはいえないけれど。
 バイト先に、妙に馴れ馴れしい先輩が居た。恰好つけて、どこかきどった風貌。女性にはすこぶる優しく、一緒に居て安心していられるひとだった。でも、それは、面がよく女性に人気あったので、これまで自然と身についた
女の子のあやしかたが上手いだけだった。
 そういえば、そんな馬鹿な男とばかり付き合ってきた気がする。学生時代からそうだった。祐子は付き合ってきた男の本質を、既に見抜いていたのかもしれない。
 そうして彼氏と付き合いだして数ヵ月後、浮気が発覚した。
 彼氏が部屋に泊まりにきた朝方、彼氏の電話にメールが入った。テーブルの上で踊る携帯電話、バイヴレーションが強化ガラスの表面で歯軋りのように雑音を響かせた。隣で寝ている彼氏をよそ目に、ベッドから抜け出した。
 彼氏のチャラついた携帯を手に取る、しきりに七色のLEDが光を放つ、バイヴレーションが呼ぶ。魔がさしたとはいえない、携帯のそれが粘着的に呼ぶのだ。カーテンの隙間から、薄暗い褐色の風景が見え隠れする早朝に、折り畳み式の携帯電話をひらいた。
 あたりさわりのない壁紙、異国の風景。その凱旋門の画像は辛辣に打算を感じる。割り込むように下段に未読メール五件の表示が。携帯電話の上部に四方向ボタン、その中心に決定ボタンがある。暗い部屋に液晶盤の光が洩れている、少し気になり、一人彼氏を盗み見た。ぐっすりと寝ている。そうしていると、また手のひらに伝わるバイヴレーション。反射的に、両方の親指で決定ボタンを押した。
 件名:さみしぃよーバカ。
 本文:はやく旅行の日になんないかなぁ我慢できないよーこんな時間にゴメンネ
 だってチョーさみしーんだもん。
 六件目のメール内容がこれだった。宛先、よこした人物は裕司とあった。残り五件のメールも裕司とかいう、どうみても偽名の人物からだった。彼氏のは明らかに同性愛の気はなかった、と思う。むしろ裕司という名前から、他の可能性を考えるべきだった。しかし、だからといって、どうすることもできないけれど。
 その場は、携帯をテーブルに戻し、ベッドにもぐった。彼氏の背中を抱き締めた。うーん、とうなる彼氏、ほっぺにキスをする。携帯はさらに二、三度暴れる。奥二重を顰め、それを一瞥。布団の隙間から脚を出してテーブルを蹴り、携帯を床に落とした。絨毯の上でくすぶるように振動し、毛羽立った絨毯にそれは絡め取られていた。
「おはよ、うー、何時? 香奈子」
 と、薄目で振り向いた彼氏に口づけ。硬くなりはじめた下半身を強く握り締めた。
「香奈子、痛い痛い」
「四時半」
 そういって、彼氏のそれを優しく撫でた。
「早いよ……」
「そう? ねえ、先輩。――する?」
 彼氏は半目になって、寝呆け眼の面をこちらへ向けた。ワタシは嫉妬心にかられ、精一杯の微笑みを差し向ける。彼氏とワタシの前髪が額をつついて擽ったい。彼氏は笑って、唇を舐め上げるようにワタシの唇を塞ぐ。涙腺から涙が溢れてくるのを堪え、彼氏の唾を飲み込んだ。
 その時、初めて、彼氏の唾が苦く感じた。メールの画面が、頭の中一面にひろがった。食道を通った彼氏の液体が残っているようで、しゅわしゅわと痺れていた。吐き出しそうになる。
 彼氏の、ゴムウェストになっているジャージを引っ張り、中に手のひらを押し込んだ。太股とトランクスの隙間から、なぞるように指を差し入れる。そっと裏筋を擦った。
「もっと」悶える彼氏、荒い吐息が耳の裏を攻め立てる。
「気持ちよくしてあげるね。こういうの、先輩好きでしょ?」
 そういって、ワタシは薄い胸板に唇を這わせ、ぴんと硬くなった乳首を啜った。
 彼氏は、ワタシのやわらかい髪質の頭部に顔を埋め、何度も匂いを嗅いだ。「あっ、いつもの桃の香り」と、彼氏がかぼそく呟いた直後、それは激しく硬化した。浮きだった血管が脈打つ、はち切れんばかりのそれをシゴク。親指と人差し指に力を込めて、根元からカリまでの芯の部分を上下する。彼氏の腰が不定期に跳ね上がる、それがひとまわり膨張した。
「先輩、出るの? 入れなくていいの?」
 乳首を舐めながらそういってあげると、彼氏は無言でワタシの身体ごと体を返した。仰向けになり、彼氏は上に重なる。彼氏の眼に血管が伸び血走っている、奥に入り込んだ瞳でワタシを直視する、彼氏のそれが、あそこにぴったりと張り付いている。彼氏の頭に腕を絡ませ、胸の谷間に引き寄せた。谷間から鼻息が洩れ、生暖かい湿気を含んだ息が下あごに吸い付く。
 それがメチメチとワタシに入り込んでいくのを、快感ではっきりとわかった。大げさ、とまではいかないけれど、演技、とまではいわないけれど、少々わかりやすく喘いだ。
「あんあん、せんぷぁーい、入ってる、気持ちいいです」
「やべ、逝きそ」
「いいですよ、全部中に出しちゃっても」
 にっこりと笑う、満面の頬笑み。
 きゅっと彼氏のそれを締めあげる。へこへこと出し挿《い》れする彼氏の面が歪む。やれたようにへの字に眉を垂れ下げ、皺を寄せ口を窄める。極度に腰の動作が加速した。胎《なか》の内壁にそれが突き立てる。子宮口にコツコツと当たる、スウィングするような様。胎を押し広げるようにそれが腫れあがった。彼氏が噴き出す、歪みきった面が、青白く色褪せる。
「香奈子っ出る」
「ああん、いくぅ~」
 嘘臭い台詞を吐いた。途端、ドクドクドクドク、と、胎にそれが溢れた。彼氏の窪んだ瞳が充血している、ただ満足した彼氏の面。胎で何度もそれがビクついていた、汁が暴れる。萎えたそれを彼氏は引き抜くと、指でもって胎を掻き回した。ほじくり返された胎から濁った液体がごぽごぽと、垂れ流れる。
「香奈子、気持ちよかった」
 感想なのか、聞いているのか……彼は二、三度繰り返した。「うん、幸せだよ」
「あ、そうか」
 一瞬――よく観察していないと判らないほどの――彼氏は目線を逸らし、戻して、作り笑みをした、ような気がした。
 彼氏が白々しく帰っていった。学校だから、と多少の言い訳をそえて玄関を出る。知っている、今日の講義は午後からだ。さらにいうなれば、バイトも入っていない。いつもの様に、ちょっと出かけてくる、とかてきとうなことを言ってくれれば邪推することもなかった。不意にあらわれた女、裕司の二文字が頭を中を支配する。
 ベッドから起き抜けて、テーブルにある飲みくさしてあった硝子《コップ》に手をやる。気の抜けた梅酒サワーの気泡が、残りカスみたいに抵抗しながら水面より飛び出した。
 ふう、と溜め息を吐いた。情事《セックス》のあとに深く息を吐いたのは、初めてだった。蠢く濁液といたる箇所に内出血の刻印が施された胎は急激に冷めた。そして醒めて、彼氏を洞察してさめたのだ。肩を脱力させて、再度息を強く吐き出した。
 絨毯に埋もれていた物体が突如うねったのは、その時だった。毛羽立った絨毯の茂みを振動に任せて携帯電話は直進した。鬱陶しいストラップを引きずる携帯電話を掴み取った、開くとあれから更に四通の件数を重ね五通目のメールが届いていた。決定を押すまでもなく裕司とわかっていた。開いて確認をする。ワタシに読んで欲しいのだろうか、タイミングを計ったようにことが終えた直後のメールだ。
 旅行の前日に彼氏の家で待ち合わせをする、といった内容のメールだった。
 こめかみがひくついた、頬が吊る、あごが上下に震えた。その、窓から射し込める暖かい朝日と液晶盤の無機質なバックライトが雑ざり合った携帯電話を覗くように見入っていると、玄関のノブが物音を立てた。扉を開きざまに「携帯忘れた」と彼氏がいった、ワタシはすぐに携帯電話を絨毯に落とす。気付かれないように足でそれを蹴って、テーブルの下へ追いやった。
「先輩、忘れちゃ駄目ですよー。珍しいですね、携帯忘れるなんて」
「急いでたからさ」
 そういった彼氏を眺めると、へらへらと嗤っていた。
 ぬっと腕を伸ばして、転がっている携帯電話を取る。彼氏から胸元に視線がおくられた、はだけたブラウスからブラのレースが顔を覗かせていた。内心、微妙なおもいで、彼氏の垂れさがった目尻に目線をやる。ワタシは裕司という女を思い浮かべながら、はぁ、と溜め息を吐いて、携帯電話を手渡した。
「ねえ、先輩。裕司さんって、お友達の方ですか?」
 彼氏の面は硬直した。直後、表情が弾けた。
「そうだよ。大学の連れ。なんで?」
「携帯拾った時に、着信がいっぱい入ってたから……急ぎなのかなーって」
「そっ、なんの用だろう?」
 先輩は誤魔化した素振りをみせて、香奈子また来るよ、そういって玄関を開けた。クダラナイ。呟いて、テーブルから硝子をひったくって一気に飲み干した。カタカタと乾いた騒音が鳴った。

  1. 2007/08/27(月) 23:14:54|
  2. 創作中の作品|
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レイプ(仮)

どうもpoolです。途轍もなく仕事が忙しいために、なかなか時間が取れず更新が滞っております。ぜんぜん気にもしてない、とは思いますが。来年のエンタ系新人賞の作品の途中経過をアップして、更新を稼ごうなどと企んでーおります。


まー実行するんですが、良ければ感想などくれたらうれしーなーっと。


横書きで読むのは厳しいぐらい文字列が詰まっておりますので、縦書きソフト推奨です。ウチのブログにリンク貼ってますので、そちらからDLしちゃってください。


月一回の更新で、何ヶ月稼げるのでしょうか? 少々、心配です。


レイプ(仮) 1


 乾いた風が吹き荒れる、木の葉が舞い散っていた。玄関ホールの片隅で渦を巻き、木の葉はコンクリートブロックを切りつけている。街灯は細々と道路を照らしている。マンションの玄関にあるインターフォンを前に、私は立っていた。
 震える指を圧し殺し、部屋の番号を押した。一呼吸おいて、呼び出しのボタンを押す。数秒後、ノイズが雑じる質の悪い声が発せられた。ハスキーヴォイス、祐子《ゆうこ》の微睡《まどろ》む声音が耳を打った。
「どちら様で?」祐子が聞く。「わたしー香奈子《かなこ》」私は答える。
 声色がうわずっていなかったのだろうか、胸を打つ鼓動は速度を速めた。
「こんな時間にごめんね、ちょっと近くを通りがかったから」そう言うと、
「いいよ、開けるね」祐子の声のトーンが跳ね上がった。
 オートロックの鍵が解除された。扉を開け、肩から提げている鞄の中身を確認する。蛍光灯に反射して、金属が鈍く輝いた。それが目に入ると、自然と高鳴りが治まっていた。
 鏡面加工されたブロックに埋め込まれたパネル盤、ボタンを押す。最上階から降りてくるエレベーターを待った。午前十一時を回っている。この静寂したホール、嫌でも緊張感が高まる。空洞の中心から上部へ伸びるワイヤー。暴れている滑車は擦れ、扉の隙間から雑音が洩れる。首筋を伝うように耳に入り、触る。
 一生交わることはないと思っていた祐子に会いに来た理由、それは高校時代から付き合いのある友人からの電話だった。
 香奈子さー、あの娘に男、獲られてるよ。――どういうこと。
 高校の頃祐子いたじゃん。――うん。
 その頃って香奈子と別れた男、その後祐子と付き合ってたよね。――うん。
 今回だって祐子に旦那獲られたんじゃない。――嘘、なんで今更。
 知らないけど、高校の友達からそんな話が回って来たのよ、香奈子なにかしたんじゃないのぉ。――ちゃんと覚えてないけど、なにかしたかも……。
 なんかさっ、香奈子んちの近くで祐子に似た人みかけたんだって。――え、ホントに?
 うーん、まっそういうことだから、気になって電話してみたわけ。――わかった、ありがとう。
 なんかあったら電話してね香奈子、よろしくー。――そうする……じゃあね、また今度。
 友人から祐子のことを聞かされた。電話を切った直後、寒気が襲った。鳥肌が全身を這う。卒業間近に最後に会った祐子との、教室での出来事が脳裏をよぎった。胃から込み上げてくるモノがあった、瞬時の吐き気。ごくりと喉を鳴らし、胃の奥く深くに捻じ込んだ。
 高校時代の友人から祐子の情報を掻き集めるため、手当たり次第に電話を掛ける。そして祐子の自宅に向かって駆けていた。途中、電車の中で忘れていた祐子のことを思い出す。
 久し振りに祐子の名前を聞いた、約十年振りだろうか。忘れていた過去が、頭の奥底で徐々に形成していく。絨毯にぶち撒いてしまったロゼをスポンジで吸い出し、搾ってラズヴェリィカラーの記憶を脳に浸していく。ゆったりと記憶が波打っている。
 高校時代、私立に通い、祐子と三年間同じクラスだった。一貫教育がどうのこうので、クラス替えが全くない学園だった。隣の席に祐子が座っていた、仲良くなった。祐子はサバサバとして男っぽく恰好が良い。肌が小麦に焼け、格好良い。私の下膨れた童顔と違い、脂肪に包まれる私と違い、祐子は女であることが勿体無いくらいだった。必然に祐子はモテた。男からは好かれ惚れられる、女からは憧れ慕われる。私も一緒。半年もしない内に親友になった、それ以上に想いを膨らませた時期もあった。
 高校生活の中で、一度、祐子に恋をしたことがある。さも、それが当たり前のように惹かれた。擦り寄る、だけど親友だから猫を被らない告白もしない。ただ恋をして想いを持ち、言葉にせず、つたえつづけた。
 ある時ふと気がついた、親友の関係は祐子との距離が近すぎる、と。近ければ近いほど相手に求めると苦労もせず返ってくる。なにごともなく平然と、それが行なわれ、当たり前の関係が、そこにある。私の中で深く気持ちが昂ぶらず、祐子を、親友以上に想うことが出来なかった。
 あれからだろうか、祐子が、私の別れた男と付き合うようになったのは。急激に祐子に近づいて、祐子を諦めて、祐子との距離を取り始めたあたりから、か。
 現実に引き戻すように、甲高いベルの音《ね》が鳴り響いた。静けさに包まれるホールに異音が響く、目が覚める、ハッとした。エレベーターが地上に到着したのだ。分厚いドアが両脇に圧しやられ、くねるように開かれる。
 気付けば手のひらで鞄の表面を撫でていた、ザラついた合皮の感触。表面から、ぐぐぐと押し込み中のそれの重厚を感じる。物音を立てないようにローヒールをすらせ、足を忍ばせる。ゆっくりとエレベーターへ乗り込んだ。
 祐子の部屋の階数は二十三階。中に入り、壁に背をもたれさせた。ジジジと、低い振動が支配している。中は明るい、嘲笑うかのように煌々とひかりを浴びせる。ダルそうにして重苦しいドアは閉まる。急激に圧迫される、耳鳴りがする。背中に一筋の汗が垂れた、ぞくぞくぞく、身震いを起こす。息苦しい、取り囲まれた壁に圧殺される……胃が上下に痙攣を始める。抜けるような太い息を吐き捨てた。
 緩やかにエレベーターは上昇を始めた。上から引っ張られているのか下から押し上げられているのか、頬が吊り上がった。加速する、ずっしりと重圧が掛かる。無理矢理身体を押え付けられ自由を奪われた時に味わった、あの頭の重みと重なる。机に後頭部を打ってしまったような、一瞬視界が真っ白になりくらくらとする。脳が鉛のように重く、ダラリと頭が垂れ下がる、同じ感覚。足を踏ん張って、蹲るのを耐えた。胃をくちゃくちゃと掻き回されて気持ちが悪い。到着するまで、終始、嗚咽していた。見上げると、階数を表示するランプが二十階をさしていた。息を呑む、ごくりと大げさに喉が鳴った。
 すうっと身体に掛かるあ圧力は消えた。胃液が持ち上がった、鼻から臭いが抜ける。鬱陶しくベルの音が鳴る。ドアが開かれ開放感がひろがった。咳き込み、前のめりになりながら壁に手をついて表へと出た。
 じっとりとした汗が額から滲み出た。灰色をした廊下の壁に身体を預け、腰を這いずるように腰を下ろした。棘のようにでこぼことしたコンクリートの壁は、衣服越しに身体を傷めつける。ひんやりと冷めた廊下はショーツ越しに伝わり、地上から数十メートルある高さを表していた。
 突如――胃が暴れ出す。状態の変化に耐え切れず胃が軋む、胃液は攪拌され逆流。喉を刺激し、鼻にすえた臭いが篭る、込み上げてきた胃液を舐めた、嘔吐して目尻から涙が零れる。この舌の両端の奥に染み込む酸味に、嫌悪感を抱いた。
 同種の嫌悪感を抱いたのは、友人の電話を切った後、旦那と別れた時、祐子と最後に会った教室での出来事。電話を切った瞬間に込み上げてきた吐き気は、強烈に覚えている。旦那との別れは神経を炸裂させ、確りと身に刻まれた。祐子との記憶は曖昧だ、ただあの時全身を貫いた嫌悪感だけは身体のどこかに残っていた。舌の表面全体で味わう胃液は、あの教室の出来事をぶり返す。忘れていた過去を呼び戻す。
 卒業式の前日、祐子を呼び出した。放課後、教室には夕日が差し込めていた。太陽の朱色におおわれて、春の陽気にほのあたたかい教室。やわらかい光は、ドアを開けた祐子の姿を照らしていた。祐子は普段の雰囲気とは違い、少女のように可憐な乙女。普段の祐子は活発で色気はなく、まったくといっていいほど化粧をしない。目の前に現われた祐子はパッションオレンジのリップを唇にのせ、うっすらと中間色のファンデーションをのばしていた。くっきりとした輪郭。シャープに切れた眼。髪は刈りあげていて、色素の抜けた髪質は窓からの斜陽に当たり赤く染まっていた。オレンジレッドに輝いた祐子にあてられて、たじろいだ。
 不意にみせられた祐子に、心の芯が折れそうになる、揺らぐ。
 祐子の細い身体になだらかなカーブを想わせる筋肉が違和感なく肉づいている、スカートから流れる露出した脚に脂肪と筋肉の調和が取れた曲線が描かれている。笑顔を魅せる祐子、屈託のない恥じらいもない頬笑《ほほえ》み、健康的な唇を大きく開いていた。
 あの時、あの祐子の頬笑みを感じた時、私はひどく申し訳ないおもい身に詰まされた。祐子は、一体どういった気持ちで教室にきたのだろう。確実なのは、私の気持ちとは正反対だろう、ということ。そうでなければ、あんな笑顔にならないから。――祐子を呼び出した理由は単純だった。
 翳りのある私の表情を祐子は気付いた。だけど、見当違いなことを発した。
「どうしたー香奈子、なんか嫌なことでもあったの? あーあれだ卒業式前だから、普段やっかんでる連中に嫌なこといわれたんだろ? あたしがガツンといってやろうか? 香奈子、大人しいから言いにくいんだろー。いいよ、任しといて」
 首を横に振った、「ちがう、そんなことじゃないの」
「へ?」
 人気ある祐子に最も近い存在だった私。そのとこで卒業式前に文句の一つでもいわれた、と祐子は勘違いをしていた。確かに下級生からは多少の嫌がらせを受けたけれど、問題はそんなことじゃなかった。
「ねえ祐子、卒業式の前に、聞きたかったことがあるの」
 じっと見据えて、祐子を直視した。祐子は一瞥したあと、すうーっと視線を逸らした。
「別れた男とどうして付き合うの? なにもモトカレじゃなくてもいいじゃんさ。だって、祐子、モトカレ以外付き合ったことないじゃん、他は断ってるのに」
「ふーん」
 そう言うと、祐子は苦笑して首を傾げた。その後、パッションオレンジの唇が横に波打った。眉は垂れ、頬はくだけ、大笑いをした。腹を抱えて、ちょちょ切れた涙を人差し指で擦った。
 ドスンと物音を立てて、ぶっきらぼうに机に腰を乗せた。からかうように私を流し見た。
「なーんだ、香奈子の話ってそんなことだったの、ツマンナイな。モトカレと付き合う理由? あるよ。男って振った癖ににさー、調子コいて香奈子のこと後悔とかすんじゃん? 慰めてやってるわけよ。っていう表向きの理由だったりして、アハハ」
 ――表向きの理由……祐子?
 祐子は言い放つとガタンと机を揺らし、脚を下ろした。真摯に表情を顰める。直後、またその表情をくしゃくしゃに崩した。
 祐子がなにかを語っている、でも聞こえない。祐子のパッションオレンジの唇がパクパクと動いている、蠢いている。聞こえない、耳に入ってこない、乾いた声が身体に伝わってこない。祐子の顔がおぼろげに翳んでいく、祐子と共に視界に入る黒板も色褪せてきている。しかし、パッションオレンジの唇が色褪せず近づいてきていた。その唇が発色して向かってくる押寄せてくる。
「嫌!」
 叫んだ。目前にあるセーラーの胸元から、鎖骨がくっきりと現われていた。モノクロームの視界に映る肌を這う血管。見上げれば、祐子の唇の内側がたっぷりと潤んでいた。肉厚の舌が唇からにゅるりと引っ込む。半開きの唇。その唇の、片脇のしわからツバがたれた。
 たれたツバが私のスカートに染みを作った瞬間――全身の血の気が引いたようにこごえて、身をちぢめた。
 ぴちゃぴちゃと音を立てて唇が波打ちつづける、止まらない。祐子が言葉を発しているけれど、消される。無音の中に放り込まれたように耳鳴りがつづき、祐子の乾いた声が掻き消される。
 祐子の唇が停止した。固まった唇は、眩く発光していた。その動きを止めた唇に安堵した直後、祐子の顔が目の前にきた。目が合う。優しい暖かい目、愛でるような居心地が良くなる表情。祐子と視線が絡み、しせんが私を貫いた。くる。祐子がくる。ハッと目を見開くと、唇がおそいかかってきた。
 力を込めて、祐子の身体を押し出した。硬質な感触が手のひらにひろがる。押し出していた腕が途中で止まった……祐子に手首を掴まれた。眉をよせて、噛みつくように祐子を睨みつけた。――祐子は目尻を弛ませて、片目を閉じた。そしてにっこりとわらう。唇がゆっくりと開いた。
「香奈子、いまさらそれはないよ。その気にさせといて、ひでーヤツ。あたしの純情はどうすんだー? ってね。香奈子、あたし、本気だよ」
 いままで祐子の乾いた声は掻き消されていた。しかし、この言葉は耳に入って、理解した。祐子にすすりよっていた気持ちと負い目が、祐子の言葉を認識したのか。
 締めつけて離さなかった祐子の手がとけた、ゆるゆると祐子の人差し指と中指が私の手のひらをすべる。抵抗しない私に気を良くしたのだろうか、指の間に祐子の長い指が差し込まれる。祐子の指がうれしそうにはしゃいでいる。祐子はいたずらっぽく目をつむり目を開けると、さっき、一瞬垣間みせた真摯の顰めた表情になった。
 私が祐子をそうさせたんだ。祐子に恋をして、近づいて、掻きまわした。親友のままのつもりだった私、でも、祐子は違う、そうじゃなかった。
 駄目、祐子のしせんに絡め取られたように身体が硬直をはじめる。祐子の指に力が入り、甲に爪がくいこむ。爪が甲を引き裂くように、祐子のしせんがねっとりと私の顔を舐める。祐子の瞳が私の唇にくぎづけになっている、パッションオレンジが近づく、くちづけをする。身動きが取れない、抗えない、押し付けるように瞼を閉じた。
 ふぅっとカメラが引いたように、私の姿が祐子の姿が、歪んだ。触れあっている祐子と私、他人のドラマをみているようだ。教室の天井から撮っている映像の中心に、重なった祐子とワタシが居た。
 手のひらが重なり合ったまま、祐子はワタシを机の上に押し付けた。硬い木材に手を押し付けたまま、祐子はアタシの首筋に頭を埋めた。祐子の脚がワタシの股に差し込まれ、無理矢理開けられている。首筋から顔をあげた祐子は、丸みを帯びているワタシの身体に頬ずりをして下半身に向かっていく。ワタシは机の上からだらりと頭を垂れ下げていた。鉛のような頭が揺れ、髪が垂れ落ちて床を擦っている。そして祐子の頭が、ワタシのスカートの中へと消えた。股を弄んでいるように上下に蠢いていた。
 ――プツっと、その映像が途切れた。
 左手の甲にふにゃりとした感触、暖かい。視線を向けると、嘔吐した異物がねっとりと汚していた。込み上げた異質な液体が鼻を突いていたことに今更気が付いた、ツンと刺激して鼻腔に異物がこびり付く。
 切り裂くような強風に打たれ、顔面が痺れた。ここは二十三階、棘のようなコンクリートの壁に後頭部を叩きつけた。突き刺さるような強風に呷られて、冷え切った廊下に座り込んでいた事実に対面した。これから祐子に会うのだ。
 喉がヒリヒリと痛い。咳き込むと、受けた左手に血が付着していた。エレベーターからの嗚咽と嘔吐で、喉が切れた。壁に左手をついて立ち上がる。前屈みになると、だらしなくひらいた唇から唾液が伝って垂れ流れる。痰ごと吐き捨てて、左手で拭った。手の甲に血が残っていた、服の裾に擦りつけて拭き取った。突き刺さるように切ない。
 壁から左手を離した拍子にふらついて、右手を外側の手摺りに掛けた。右手の内側にガキンと弾けるような衝撃。右手を掛けたつもりがすり抜け、身体ごと手摺りにぶつかった。途端手摺りに乗り上げ、腹に激痛が走る。頭から転げ落ちそうになるのを耐え、手摺りにしがみついた。
 手摺りを脇で押さえ、溜め息を吐いた。先ほどの金属同士が当たった衝撃音は、絶景の星空へと消えていった。鼻腔の異物に反応した鼻水は、地上が掻き消された闇へと滴り落ちた。
 うな垂れていた頭を上げると、ずっしりと重みある刃物が目に飛び込んだ。右手に握られ、内向きになった包丁。刃の部分が赤褐色の斑模様になった万能包丁。知らず右手で握り締めていた、無意識に右手での動作を避けていた。
 ジッとみつめると、血だらけになったワタシと目が合った。斑の隙間の金属部から垣間見えるワタシ。その瞳の奥に、悲痛な叫びをあげながら頬を小刻みに痙攣させる旦那の姿があった。唇の付け根に皺を寄せた旦那が哀願していた。この包丁で旦那を刺した、たぶん刺した、刺したと思う、唇を横に波打たせ別れるといったんだ。理由は思い出せない、ぽっかりと穴が開いている。旦那の発した言葉にノイズが乗って、思い出しても聞き取れない。
 斑点がひろがる包丁の旦那は、ワタシを掠めて逃げ出した。部屋の中央で蹲るワタシは、背中越しに玄関の閉まる音を聞いた。ワタシは床に斑点を作り、膝と手をつき嗚咽していた。その斑点が溝に沿って流れていくさまを滲む視界で追っていた。
 そして同じように私は込み上げ、ゲフと発した音と共に、胃液を絶景の夜空にぶちまけた。もう出ない、胃液も干からびたようにゲフゲフと空気だけが食道を抜けて、鼻と口に残っている。
 小刻みに震える脚を叩く、手跡の輪郭を現して赤く腫れる。あまり痛みは感じない、感覚が麻痺している。壁に左手を押し付け、足をずって前に進む。脳を刺激するかのように手のひらにチクチクと棘が突き刺さる。右手にある包丁の重みが堪える。鼻水を啜る。
 ようやく――祐子の部屋の、玄関の前の、インターフォンのボタンに、指を当てた。
 押せば鳴る。一度勢いよく息を吸い、そして深く吐く。三度、四度、それを繰り返す。
 胸に右手を重ねる。胸の膨らみに刃があたり、吸い込まれる。斑に紋様を施された包丁の刃に胸がのる、刃が消える。速度が跳ね上がり心臓の鼓動が聞こえる。
 準備はいい? 玄関ホールでの会話で私は解った。私がどうして来たのかを祐子は知っている。十年ほど会っていない人間に対して、平然と、あの会話は出来ないはず。祐子の感情に変化がみられなかった、祐子の中では想定済みだってことだ。予定調和ならば、いつでも対応がきく。祐子は近々私が来ることを分かっていた、何故ならば旦那はここに居るから。現在は祐子の彼氏だ。電話で友人のいっていた通り、祐子は旦那を奪った。学生時代同様、私と別れた彼氏と祐子は付き合う。
 どうして、それもわかっている、私は知っている。ここまでくる途中、祐子の記憶を手繰り寄せて気がついた。もしかしたら既に知っていたかもしれない、記憶の奥底にあったかもしれない。ただ、思い出したくない過去として、心中深くに沈めていただけかも、しれない。
 教室に祐子を呼び寄せて、結果としておこなわれた出来事。はっきりと断言は出来る、祐子は私の股の間に頭を埋めた。その掻き消された記憶の事実。徐々に思い出してきたけれど、全容ではない。まだなにかあった、あの後なにかあった。そうワタシが身体を軋ませて教えてくれる。あのまま、なにもなかったかのように祐子と別れたはずはない、奥底のワタシが叫んでいる。
 行け。ドクン――心臓から一気に血液がおし出された。埋もれた包丁が胸をおし込める。インターフォンのボタンを押す。
「香奈子ぉ? ちょっと待ってね香奈子、いま開けるから。帰っちゃ駄目だよ、ね? 香奈子」
 無言で眼を瞑った。インターフォン越しに、祐子の浮かれた声色がつづく。
「ちょーっと香奈子、ここまでくるのに時間掛かったよね。帰ったかなーとか思っちゃて、心配したんだよー香奈子」
「うん……思ったより高くて、ビックリしたの。脚が竦んじゃって」
「うんうん分かる、香奈子そういうとこあったよね。まあいいや、香奈子ぉ! これから開けますよー」
 そういって、インターフォンからのノイズは消えた。ドアの奥から騒々しい足音が洩れてくる。
 眼を瞑ったまま、私は待った。祐子の記憶を手繰り寄せる。祐子の表情が鮮明に浮かび上がる。頬を和らげた祐子の唇はパッションオレンジに色付いている。祐子の波打つ唇。
 頭が強烈に痛い、後頭部にひり付くような信号が走る。確りと包丁を握り締めた。子宮をきゅうきゅうと締め付けられる、長細い指で内壁を掻き毟られたよう。玄関が開かれる準備をすると、現実から背けたくなる衝動と現実を壊したくなる衝動とが雑ざり合う。また教室の記憶が重なり、祐子のコロコロと変わる表情が脳裏の片隅で繰り返される。
 歪む視界、おぼろげにドア引き伸ばされていく。色彩は灰へ変わり、みえなくなるほどに白み掛かっていく。
 みるからに厚みのある鉄板を挟んだ先に、祐子の声が。隙間から洩れるのではなく、このドア全体から祐子の声が聞こえるようだ。
「お待たせー、香奈子。香奈子上がってくるの遅くてホント良かったー。香奈子に逢えるから、準備するのに、手間取っちゃったよ。じゃあ開けるね、香奈子」
 そして、開かれた。


 ☆


「やっと逢えたね、香奈子、どう? あたし、可愛い?」
 一目、祐子が視界に入ると、持っている万能包丁を握り締めていた。目が合った、視線が繋がった。
 祐子を刺した。
 膝が崩れる祐子。玄関のコンクリートに膝をついた祐子の体重が包丁にのり、その包丁が斜めに傾く。祐子の腕が私の腰へ回り、しがみつく。手に神経が走っていないかのように自由が効かない、包丁を握ったままだ。祐子を、その包丁によって支えているような感覚にとらわれる。腹に祐子の息が掛かる。蹲った祐子の後頭部が目にはいる。
 生暖かい液体が指を撫であげ、ヌメる。ぬらぬらとした液体が、指に纏わり、ねちゃついて、ぴちぴちと弾けた音を奏でる。祐子の血液が手のひら全てを朱に染めている、生ぬるい血液が覆い尽くした。祐子の腹に包丁がズブリと。祐子が呻いている、「香奈子、高校ん時と変わんないね。あの時はカッターだったけど」


 ☆


 案外、祐子を刺した割には驚きもなく、平然と状況を認識していた。
 パニックに陥ったのは一瞬、祐子の唇がパッションオレンジに色付いていたことに気が付いた時。唇が蠢き、言葉を放った瞬間、祐子の身体に包丁を突き立てていた。教室での恐怖感と同等の恐怖が襲った。
 祐子は教室で会った時と同じ化粧、唇にはオレンジの口紅。髪は相変らず色素が抜けた茶掛かった質感、変わっていたのは肩下まで伸びた髪型。まあるいソーの白いブラウス、やわらかいスウェード素材の黒いロングスカート。あの頃と違って、女性の匂いに溢れていた。
 片目を瞑り、額から脂汗を滲ませて、祐子は面持ちをあげた。私に柔《やわ》い視線を送る。
「香奈子、高校ん時と変わんないね。あの時はカッターだったけど」
「どういうこと?」
「やっぱ覚えてない? だよね、次の日、普通に話し掛けてきたから」
「私、なにか、したの」
「したよ、腰にあるの、痕が」
「嘘、覚えてない」
 あの後、教室で祐子に襲われた時、私、祐子を刺したの? 覚えてない。でも、記憶がないだけで可能性はある、私の中に隠された記憶があるから。可笑しい、私の中でなにか色々なものが欠けている。
 現在だってそうだ、祐子を刺したのに平然としていられる。恐怖は感じない、ただ、少なからず感情を抱きながら物事を受け入れている。どうして呼吸の一つも心拍数の一つでも、乱れないんだろう……
 ――あの時と一緒、香奈子って後で忘れるから、だから別に大したことじゃないんだよねー。まあいいけどっ、どうせ次があるから。どうしようか? うーん……
 そうだ。じゃあこうしよう、あの時の続きしよ、ね。後はあたしがなんとかするからさ――
 断片的な記憶の片隅で、祐子の呆れた声が過ぎ去っていった。過去に祐子の放った言葉が、押し込まれている記憶の断片を無造作に組み合わせていく。それら記憶の断片は一体いつなのか、順序は? 手繰り寄せる記憶の確実性が薄れ、曖昧さが色濃く残る。
「ねえ! 祐子。教室で祐子が私を押し倒したよね、それは思い出しているの。その後、私が祐子を刺したの? はっきりしないの」
 吐きつけた息で、祐子の前髪が揺れていた。祐子は眉間を横に顰め、目を細めた。視線が絡み、祐子の目尻が垂れる。
「そうだ、よ、香奈子。ほら、ここ。凄いでしょ香奈子、ばっちりの残ってんの、これ、あたしに残した香奈子の痕ね」
 紅い染みが繊維を侵食しているブラウスを、祐子は捲り上げた。皮膚が引きつって盛り上がった痕が縦にのびていた、それも三箇所、コレがカッターを刺した痕跡。尋常じゃない。ただカッターで引っ掻いたぐらいの傷じゃ、こんなにも酷くはならない。三回、深く刺し込んでいるようにしかみえない、無茶苦茶だ。
「いくらなんでも酷いよこれ……」
「まあね、それよりも、あたしのお腹の方が、大変なことになってるんだけど。……香奈子?」
「う、うん」
 祐子が私の肩に手を掛けて、立ち上がろうとする。強く握り締めていた包丁から手を離そうとすると、祐子はそれを制止した。祐子は、私の手首を、力強く掴む。
 身動きが取れないまま、祐子は身体を預けるようにして抱き寄せる。
「香奈子待って、そのまま」
 掴まれていた手首は祐子の身体に向かって引き寄せられた。さらに深く、包丁がめり込む。柄の部分を握っていた両手は、祐子の身体に当たり、止まった。手のひらから、刃の部分が全て祐子に吸い込まれた感触が伝わる。
「ひゃっ」声をあげた。
 変な話、思わず声をあげていた。
 肩に身体をのせていた祐子は、ゆっくりと身体を持ち上げて、肩を掴んで体勢を維持する。苦悶の表情で唇をひくつかせ、頬を吊り上げる。歯を喰いしばっている。腕を私の顔に近づけて、震える指で頬を撫でた。
 ねっとりとした人肌の血が頬に線を引く、血の跡が生ヌルイ。唇が半開きになり、ただ祐子をみていた。
 眉を細くして、目を見開き、強張らせ、祐子は、祐子なりの満面の笑みを浮かべた。
「これで忘れない。さすがにあたしのこと忘れないよね? 香奈子」
「わからないよ、祐子。全然わからないの」
「落ち着いて香奈子、って、落ち着けったって無理な話だよね、イテテテ……だって刺さってんだもん。落ち着いてるあたしも可笑しいか、まあいいや」
 祐子は身体をくねらせた、殺虫剤を撒かれた蜘蛛ように身体をちぢ込ませる。弓形に背中を反らせ、祐子は咽び返った。パッションオレンジ色した唇の隙間から薄い朱の体液を、たらりと垂れ零れた。
 虚ろになった祐子は、茫然と無機質な表情。祐子は瞼をぎゅっと一文字に閉じ、開いて私を直視した。祐子の口が開く、唇の内側に朱の体液を滲ませていた。近づく、近づいて紅に滲んだパッションオレンジが半開いている。眼前に唇だけになったと思った途端、祐子の唇と交じり合った。
 背の高い祐子は唾液を流し込む、私は咽た。鼻の先にツンとした刺激が走った。口を閉じて抵抗しようとしたその時、祐子の体重が圧し掛かった。祐子は呻いた。
 ドロドロとした酸っぱい液体が喉を犯した。祐子から多量の体液が流し込まれる。痛い、辛い、粘着した液体か固形物が混入した液体が容赦なく叩き込まれる。祐子から顔を背け、異物を吐き出した。直後、粘ついた涎かなにかが首筋に貼り付いた、襟首をすり抜け、背中に体液が入り込んできた。
 見上げ、祐子を睨む。
 ゴボッっと抉じ開けるような硬質な音色を奏で、祐子の頬が膨らんだ、栗鼠かハムスターのように。祐子の両鼻から朱の液体が噴き出す、その噴き出したそれに混入物が雑じっていた、長細い麺のようなものだった。
 そして祐子は吐き出した。真っ赤に染まる大量の胃液が勢いよく飛び出し、祐子との間に注がれる。仄熱い真っ赤な胃液が握っている手の甲に当たり、多量の麺が纏わりつく。その赤い汁を吸い取った麺は千切れ、すり抜けて落ちた。祐子と私、身体中真っ赤に染まった。
 祐子のブラウスは排泄物に塗れ、ほぼ血液のような胃液に塗れ、くちゃくちゃと音が鳴る。黒のスカートはたっぷりと胃液を吸い上げ、赤キャベツのようなパープルカラーに膨らんでいる。スウェードの繊維はべったりとねている。
「祐子、祐子、祐子」
 振った。手首を掴んでいた祐子の手が緩んだ、肩を掴んで揺さぶった。
「祐子、祐子、祐子」叫んで祐子の頬を叩く。付着している胃液でヌルりと滑った。
 脱力した祐子。眼は焦点が合っていない。だらしなく祐子の両腕は下がり、立っていることを維持出来ず、私の胸で支える。祐子をがっちりと抱きかかえて、耳元で何度も叫んだ。
「一体私に、なにがあったの? おしえてよ、祐子。ねえ、祐子ぉ」
 首筋の産毛が波打った、幽かな声音が耳朶を掠めた。祐子の硬い髪が私の頬に張り付いた。空中分解してしまいそうな弱々しい声が、捻り出された。
「多分、途中で、意識がとぶから、いいたいことだけいうね。香奈子のこと、好き」
「うん」
「それだけ? ひでーな。あたしのこと、好き?」
「好きよ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃないよ。おしえて、記憶が曖昧なの」
「でも、まあ、嘘でもいいや。香奈子、高校卒業してから、今日初めてあたしと逢ったって思ってるんでしょ。それ、違うから。この前、逢ってるのよ、あたしたち。実際には二回、だから今日で三回目。
 高校の時聞いたよね、どうしてモトカレと付き合うのかって。あの時あたしは慰めてるっていったけど、あながち間違ってはなかったんだ、あの頃から可笑しな素振りがあったから。いまほど酷くはないけど、ね。
 香奈子を守ってたんだ。好きだから、ただそれだけ。
 奥の部屋みたら、色々思い出すかも。別にあたしはどうでもいいんだけど、香奈子がずーっと私を覚えてくれてたら、それでいいし。旦那がい」
 支えていた祐子の身体がずっしりと重くなった。
「祐子」
 艶やかな御影の墓石を抱えたように重い。祐子の身体から力《りき》みが消え、支えきれなくなる。祐子の膝が折れ、正座の体勢になり、私の下半身に頭がもたれ、支えられていた。じょじょじょと祐子の股から体液が流れた、アンモニア臭が鼻をつく。胃液、血液、排泄物、祐子、それら雑ざり、床にひろがった。祐子の頭が横に流れ、今度は床に頭がもたれ、くの字になってとまった。そして転げた。
 この瞬間は生きているかもしれない、既に死んでいるのかもしれない。しかし、あのパッションオレンジの唇はもうぴくりとも動かない。このまま祐子は底止《ていし》するだけだ。思いもよらず、脅かされた唇が恋しくなった。
 好き、と嘘をついた。祐子に会うまでは殺意とまではいかなかったけれど、持ち出した包丁がなにをさしているのか。一種の精神安定のためか、わからない。祐子と会話するまで、触れ合うまで、好き嫌い以前の問題だった。そもそも祐子を忘れていたのだから、思い出しても傍事のように感じていた。閉じ込められたワタシが過去をみせただけで、その実感はなかった。
 祐子が私を愛していた気持ちを利用して、嘘をついたのだ。結局、断片的にしかわからなかった。苛立ちが這う、その苛立ちは身勝手な私に向けられたものなのか、わからずしまいだった祐子に対してなのか、知りたくもなかった。
 私の中でなにかが、かわる。どう代わるのか替わるのか、祐子に抱いていた感情や感傷や印象、それらかわりはじめていた。拒否感も違和感もない、自然に祐子が浸っていく。
 「今日で三回目」といった言葉で、いままで持っていた祐子の人間性がさらさらとなくなった。そう、記憶が戻りつつあった。祐子を刺した後、落ち着いている私に語りかけた記憶の中の祐子。忘れるから大したことはない、といった祐子。もしかして祐子に救われているのかもしれない。
 祐子は、仕方がないなー香奈子、と微笑んで記憶のパーツを積み上げた。破片の一つ一つが繋がっていく。
 ぽっかり空いたパーツを埋めていくには、まだ足りない。あと、旦那のパーツが足りない。祐子と旦那を結びつける接点が欠落していた。空洞と化した旦那との記憶が咬み合えば、卒業後祐子と出会った過去があらわれてくる。
 しゃがみ込み、横になっている祐子を仰向けに寝かせた。あの頃と同じように、祐子の前髪を人差し指であげた。活発で健康的な祐子の面持ちが甦った。目は見開いて焦点は全く合っていなかったけれど、教室での祐子だった。この数年間の変化はあったように思えるが中身はなにも変わっていない気がする、私も同様。
「奥の部屋」
 ひとりごちた。そして祐子の言葉をなぞる「色々思い出すかもね」
 祐子の瞼を指で閉じ、立ち上がる。
 玄関から数歩いった突き当たりにドアがある。白いドアに血痕が数箇所浮いていた。ねちゃねちゃと、てきとうに液体が雑ざり合った塩ビの床も、軽く盛り上がっていた。灰色の塩ビシートに、さまざまな色彩が刻まれていた。ぬめっている廊下に足元を掬われないように、ゆっくりとドアに近づいていく。途中、麺を踏み、みちみちと潰れる音色が響いた。
 ドアを開ける。祐子のいっていたように、一つに繋がるのだろうか。開いた先の部屋、室内を見渡して呆然とした。ある紙袋が四つ、それらを目にして絶句した。

  1. 2007/07/15(日) 15:58:13|
  2. 創作中の作品|
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幽霊(仮) 出来ているところまで(笑)

 今年の2006年の夏頃から書き出していた作品なんですが、十二月中には終らせようと誓い、チャレンジすることにしました。そうなると、死線はどうすんだってことになりますが、死線は三月中に仕上げることにしました。


 この作品はエログロメインなので、“エロイグロイ”が苦手な方は、ご遠慮下さい。ではでは行きましょう――“幽霊(仮)現在出来上がっているところまで。一応直クール作品”スタート。


 1.
「あーあ、何だこれ? 多いよねぇ、ホント」僕は頭を掻いた。
 室内は、蠅や虻にすら敬遠される様子。物が散乱していた。



 2.
 僕はこれといって、人が死ぬことに対して怖いと思ったことは無い。
 目の前で人々が、無残にも――色々と形容詞はあるが、あえてこの表現を使用する――“えげつなく”且つ猟奇的の殺されようとも、僕は何も感じない。そのスナッフ画像に出てきそうな場面に遭遇しても、その人が簡単に、鈍器でも銃でも鋭利な刃物でも何でも良い、頭蓋骨が陥没しようが、銃弾が頭皮を貫いて、固形排泄物混じりの下痢気味のような脳みそが流れ出たとしても、だ。
 もっと分かりやすい表現で形容すると――中華料理にある、素敵猿の脳味噌シャーベット料理――猿がシャンプーハットを被っているとする。帽子の部分とつばの部分の境目に、水圧で行うレーザーメスを入れて頭の帽子の部分をとってみようか、ほうら、綺麗な皺の寄った脳味噌が見えないか? そこへ麗らかな光沢のある真鍮のスプーンを差し込んでみて、掬い上げてみて。もう救えないけれど、余程特化した感情を抱いていないと何も感じない。恐怖を感じることは皆無だった。
 ただ、足元で横たわる――その女性――となれば、違った話になる。のたっと、転がる分別が小難しい生ゴミならば、軽くオーガニズムを感じながら、脳に神経を張り巡らせて、いそいそと比喩し一人――自慰行為するのだが……その女性は違った。僕は安易な自慰行為を出来ないでいた。
 便所に生息する丸虫扱いが出来るほどの、糞くだらない女性ではなかった。その女性は――聖母――だった。僕にとってのマリアでありナイチンゲールであり、慰安婦の側面を持ち合わせる女性でもあり、汚したくとも汚すことの出来ない崇高的な女性だった。
 やんわりと、そりゃあ腹黒い一面も知っているが、その気の悪い考え方も含めて彼女は愛おしい。足元に、頭部と胴体が離れて全てが酸化し、どす黒くタンパク質の塊に姿を変えようとも愛おしいのだ。僕にとっては、かけがえのない女性だった。
 しかし喜びを感じ背徳に苛まれながら、僕はその女性を椅子へと座らせた。



 3.
 深く埋められ押しやられるように、太陽が山間に消えてゆく。辺り一面を真紅に染め上げて、翳り始めていた。夕刻の食堂は、窓から紅い光が射し込まれ、内部も真紅に染め上げていた。
 長方形の豪華なテーブルは食堂の中央に置かれいる。天井から吊るされたシャンゼリアは蜘蛛の巣が貼られ、ゆらゆらと揺れる。湿っている牛肉を入れる袋も何かで吊られ、ゆらゆらと揺れている。僕は席について、料理を待っている状態にいた。何かの雫が降っていた。
「ごめんね、ゆうちゃん。ろくなモノが無くて……」
 少し疲れた面持ちで現れたのが同級生の女。髪は後頭部のつむじ辺りで括り、幅の広いレースのリボンで一つに束ね、長さは肩に掛かる程度。そしてナチュラルなメイク。紫がかった薄い藍のアイライン、パールが乗る。頬は肌色に近いサーモンピンク。唇は押さえ目の、どちらかといえばピンクに近いレッドのグロス――艶が印象的だった。
「いいよ別に。どうせ、食べられないから」僕は答える。
「どうして?」女が聞く。
「分かっている癖に」僕は間髪いれず答える。
「そうね」女が悲しそうに唇を噛んだ。
 こげ茶の花柄と思しきテーブルクロスに置かれた食材は、ポテトチップスだった。食材とは程遠いが、仕方が無いといえた。その皿に収まるポテトチップスの横に、クッキーとチョコレート、サブレが添えてある。皿が茶色に滲んでいるようにみえた。
 そうして僕は、どうせ晩ご飯も朝御飯も食べる事は無いだろうと思い女を眺める。潤う唇にポテトチップスが咥えられ、音を立てて食されていた。ぼろぼろと零れ落ちる屑、ブラウスが汚れていく。
 目の前の女は、まるでパーティードレスさながらの恰好をしていた。襟にフリル、前止めの宝石の様なボタン。袖の縁は大きく取ってあり、中世ヨーロッパのブラウスに似ていた。そのブラウスの丈は長く、スカートの中に入れずに外へ出していた。その可笑しな姿を眼に留めると、ふと気になる事があった。
「君は今朝、そんな恰好していなかったよね?」と僕。
「さっき着替えたんだ。この時のために、おめかし……したの」と女。
「どうして?」と僕は促す。
「分かってる癖に……」と女は微笑む。
「まあね」と僕は苦笑。
 僕は立ち上がり、横に座らしておいた――その女性――の肩に、そっと手を添えた。そうして、膣の在る腹部に近づいた。女性の手に持たれていた“それ”に頬を寄せ、そっと“それ”の耳元で囁く。「しようよ……」と。そのまま、その“それ”を舐めずり廻し、唇に貪りついた。
「愛でたい、愛でるよ、ねっ、いいでしょう?」と僕。
「――――」“それ”は当たり前に無言だった。
「いつもの様にしてよ」と僕はニンマリ。
 僕は女を眺めながら、その“それ”を自分の下半身に押し当てた。そして女に尋ねる、「ねえ、幽霊っているのかな?」。女は「これからなるんだよ、ゆうちゃん」と答えた。
 そうだよな、どう転んでも天国へは行けやしないか……天国なんてあるのかな? 死んだ先なんて、どうせ何も無いところなんだろうけど。
 身震いが起こり下半身に信号が流れ、僕は発射した。その女性の、その“それ”に汁が掛かった。いつものことだった。
 女は、ぼうっとして物欲しそうに僕を眺めていた。その女のせいで満足感が低下した。嫌悪感を覚えた。――この女とは共有したくない。



 4.
 昨日僕と姉と他のメンバーで、別荘へ来ていた。地元から少し離れた避暑地だった。残暑厳しい盆過ぎに、宿題の残りを仲間で片付けよう、というのが目的で友人に誘われる事になった。特に断る理由もなかったもので、僕は姉を連れて参加することにした。姉が居なければ行く気にもならないが、それはさておいて。
 なかなかに多い人数、八人構成で別荘がある高原に到着した。なだらかな山を登り、ひんやりとした雰囲気が漂う、緑溢れる癒しの高原の別荘に辿り着いた。姉が笑顔だったため、来て良かったと僕は感じていた。
 別荘の玄関の前に立つと、結構な敷地面積に驚いた。日本情緒には不釣合いな外観は、洋館を思わせる作り、庭は適度に手入れをなされていた。僕らはとりあえず、くたくたになった脚を休ませ、そして一息つくため食堂に向かうことになった。
 各々食堂の壁際へバッグを置く。僕は姉の手を取って椅子に座る。ぞろぞろと人が椅子へ座り始める。僕を含め男四人、女三人と姉の計八人全員が着席した頃――この別荘へ誘った同級生は席を立ち、真っ白なテーブルクロスが掛かる長いテーブルの前で語り始めた。眼鏡を掛けた、さも学がありそうな女だった。
「よく来て下さいました。盆も過ぎて、そろそろ新学期かという所ですが……皆様に来て頂いたのは他でも御座いません。遊びきった残り少ない夏休みの宿題――これを一気に片してしまおう、ということでしたが……あれは嘘です。いやあ、ビックリしました?」
 と、一人興奮気味の眼鏡っ子。手が上下左右と自在に動き回り、アメリカンナイズドされたように大げさなジェスチャー混じりで語る。
 そこの見た目は学がありそうで頭は少し可哀相な眼鏡っ子に比べ、何か有り気な話しを聞かされるこちら側との温度差が、如実に現れていた。他は溜め息を吐いていた。
 しかし、温度差確執などを気にする素振りは全く魅せず、眼鏡っ子は意気揚々と熱弁を奮う。
「やはり、夏! そして盆とくれば只一つ……“肝試し”でしょう。宿題なんてのは放っておいて――ですね、今晩は幽霊体験と行きましょう! だあって、ほうら、出るんです……この屋敷に幽霊が出るんですよ。リアル幽霊体験なんて楽しくありませんか? 私など、もう楽しくって楽しくって、憤ってしまいます」
 過度の熱弁は約十分間繰り広げられ、眼鏡っ子は、はあんはあんと息を切らし顔全体が朱を帯びて、汗ばんでいた。憤っていると言ってかなり興奮のご様子、軽く痛々しさに当てられる結果になった。
 しかし、糞下らないと感じている最中、辺りを見渡してしてみると、残念なことにあらかたのメンバーが賛同していた。僕とは違う意味合いで当てられたようで、学あり気な眼鏡っ子の想いが届いたらしく、他のメンバーは俄然ヤル気が出ていた。
「はぁあ」と溜め息一つ。
 面倒臭い事この上ないが、僕一人反対したところで何も変わらないと思い、話の続きを聞くことにした。
「ですから今晩十二時より、この食堂から“肝試し”本物幽霊ツアーへ出発します」と、嬉しそうに語る眼鏡っ子。
 僕は話し半分に聞きながら、この退屈の連続をどう回避するかを考えていた。とりあえず横に座る姉を眺め癒されよう。
 姉の西城綾《さいじょうあや》。一つ年上。髪は黒、肩下まで伸びている髪を、うなじ辺りで一つに括っている。黒のファーの付いたゴムだ。眼の位置で整えられた前髪を紺のピンで止め、流して額をあらわにしていた――あらわにさせていた。眼はくりっと大きくふっくらとした下膨れ気味の頬、醸し出す雰囲気は中学生を彷彿とさせていた。うちの高校で唯一化粧をしていなかった、させる訳がない。手に丁度良い83cmのおっぱい、その上下にギャザーが入る胸開きの白いチュニック、さらに錦糸でペイズリー柄が入る。雪の様な白い肌が綺麗だ。生デニムの濃紺スカートは膝に少し掛かる程度に抑え、あまり挑発しないようにさせている――化粧同様、しょうもない雄どもが、わらわらと纏わり付くと面倒極まりない。白いソックスは綿100%の凹凸が入る縦じま――赤いハイカットローテクスニーカー。こればっかりはヴァンズメーカーを指定した。コンバースはありきたりだから、姉には違うものを履かせてみた。
 姉のすばらしいキュートな容姿を堪能すると、やはりと言うべきか、むくむくと下半身に血が集まり充血してきた。くらりと脳が刺激され、興奮と欲望が込み上げる。僕はさも当たり前かのように、姉の肩に顎を置いた。
「綾ちゃん、さわるよ」
 すうっとテーブルの下から手を伸ばし、姉の太ももに手を添える。むっちりとした太ももの、押せばめり込んでいくが崩れない、やわらかな感触を楽しみながら、奥へ手を這わしていく。その先には、薄いオレンジのコットンショーツがある。
 すると、もじもじと太ももと太ももが擦れ合い、手が挟まれて動かせなくなった、困ったものだ。
「ゆうちゃん、部屋に戻ってからじゃ駄目……かな?」姉の潤う瞳が僕を犯す。
「やだ」
 止めないでと訴えているようにしか見えない潤んだ瞳は、そういう、いやいやをするプレイの前振りだろうか……反対に弄る手を止めると、姉は切なく口を尖らせるかも知れない。僕は恥辱する事を姉に求められている、と感じ、手を一旦太ももから抜いて姉の耳元で囁いた。
「ねえ綾ちゃん、太もも開いてみせて」
 そう言って、僕はおもむろに重なる太ももを抉じ開け、恥部の突起物を勢いよく小突いた。――「ひゃうん……」姉は驚いて甘い吐息を吐いた。
 僕はゆうっくりと諭すように、一言一言ハッキリとした口調で、再度耳元に顔を近づけ口を開いた。
「ね? 綾ちゃん。脚を開こうねっ」と、にっこりと最高の笑顔が出ていたと思う。
 コクコクと可愛らしく頭を上下させ、じりじりと脚が開いていく。僕は「綾ちゃん可愛いよ」そう言って、黒のスカートを腰に向かって引き上げていく。誰にも見えないようにテーブルの下で行い、すべすべの肌を味わいながら、オレンジのショーツを楽しむ。
「ゆうちゃん……あんまり激しくしちゃ、やだよ」
「うん」
 姉は敏感すぎて、あまりヤりすぎると声が漏れる。頑張って我慢しているつもりだろうけど、表情に出てしまう、声が漏れるどころか、分かり易く喘いでしまう。
 僕はショーツの窪みに手を当てて、適度になぞり続けた。歓喜の声を張り上げないように、適度に、もてあそぶ。「ゆう……ちゃん」姉は僕の腕をぎゅっと掴む。下を向いて口を瞑っていた、身体が小刻みに震えていた。
「綾ちゃん、疲れたの?」
 眼鏡の話しを真剣に聞いている、何気に幽霊ツアーとか阿呆臭い事に乗り気なメンバーへ聞こえるよう、姉に声を掛ける。
 このどうでもいい肝試しの話しを切り上げさせるため、姉と楽しむ素敵プレイを悟られないために、胡散臭く姉の肩をさすった。
 早く切り上げたいな……割り当てられている部屋に戻り、この続きがしたい。
 撫でるショーツの割れ目から、分泌される液体が指に絡みつく。そうして、太ももとショーツの間から汗が滲み出て、汗ばんだ肌は僕の手に吸い付いていた。絹の表面をした餅のような太ももと、湿った綿生地のショーツのゴワゴワした感触、姉に限らず僕の下半身も限界がきていた。
 僕はおもむろに姉の手を取った。
「ゆうちゃん?」小声で僕の名を呼ぶ。
 無言で掴んだ手を僕の下半身に押し当てた。「んもう……」と、一言姉は呟いた。僕は大げさに姉の肩をさすり、眼鏡っ子を真剣な眼差しで一瞥、辺りに視線を送り語る。
「うちの姉は身体があまり丈夫な方ではなく、道中かなり疲れたそうです。座って居るのも辛いそうなので、一度解散というのはどうでしょうか」
 そう言いながらも僕の下半身は、姉の手のひらと指の感触を楽しんでいた。姉によってジッパーが下ろされ、トランクス越しに硬化したモノを指でなぞる。くみくみとしたローストロークは、慣れ親しんだ動きだった。
「僕がどうこう言うのも可笑しい話ですが、とりあえず晩ご飯の時にでも集まって、えーと、リアル幽霊ツアーですよね。それを詰めていきましょうよ」
 トランクス越しは飽きたようで、姉はトランクスのギャザーを広げ、直接中に手を差し込む。
「ねぇゆうちゃん、ぴゅうぴゅう良い?」姉は屈託のない笑顔で囁く。「今から部屋に戻るようにしてるから、もちょっとまってよ」僕は言い聞かせ、姉の手を粘着性のある半濁した液体で汚し続けた。
「どうでしょうか、皆様」
 僕の案に眼鏡っ子は深く頷き、今後の予定をグループに伝えた。
「そうですね、西城君の言う通り、夕飯に又ココで集合って事にしましょうか。もしかしたらそのまま幽霊探しに出かけるかも知れません、ジャージでも何でもいいので、動きやすい格好でお願いしますね。部屋の割り当ては……と」
 そんな眼鏡っ子の話しが続く中、硬化したモノを握る姉の手が、徐々に速度を速めていた。さすがに僕の呼吸が荒くなる。
「綾ちゃん……」僕が眉をしかめながら呟くと、「出ちゃうの?」姉が心配そうな微笑で聞いてきた。
「うん」と答えると姉は「いいよ」と、もう片方の手で僕のウイークポイントを突いてくる。眼鏡っ子の話しは続いていた。
「二階に部屋が十室ほどありますので、そちらに移動お願いします。各部屋のドアには名前入りのプレートが掛かっていますので、しばらくおくつろぎ下さい。七時半には夕飯の準備が出来上がりますので、それまで自由行動です。そうそう、幽霊にはご注意下さいね」
 面白くもなんともない幽霊話を持ち出して、脅かす眼鏡を他所に、僕と姉の行為は続いていた。誰にも気付かれないハズだが、嫌に突き刺さる視線を感じた。
 姉の手を少し和らげるため、ショーツの中に指を入れ、ぐちょぐちょと音を立てた――そうして、ウィークポイントを突かれ、込み上げていた発射感が治まった。姉は下を向いたまま大口を開け、虚ろな表情を浮かべる。「綾ちゃん、部屋に行こうよ」と聞きながら、突き刺さる視線の先を探した。
 居た――向かいに座る女が、恨めしそうに僕を眺めていた。夏バテした白熊のようにテーブルの上で腕を組み、その間に顎をはめ込んでうな垂れていた。今にも頭部が溶けて、汁がテーブルに拡がりそうになっていた。――たしか、近藤という名前だったと記憶している。
 同級生だと思うが、近藤の下膨れた頬が姉に似ていたため、印象に残っていた。後のメンバーは名前すら知らない、知る必要性がない。
 僕は中指と親指をショーツの中から抜いて、姉の肩を強く抱いた。姉はコクリと頭を下げて移動を承諾、たくし上げていたスカートを姉に戻すように言い、僕のズボンをなおすように伝えた。
 再度姉は「うん」と恥かしそうにして、いそいそと僕のトランクスから憂いしく手を引き抜き、ジッパーを上げボタンを留めた。その後に姉は、ずるずると自分のスカートを戻した。
「では、解散という事で」と、眼鏡っ子の言葉と共に、各々は鞄を持ち上げて二階に向かった。
 姉に身体を預けさせて、肩を抱きながら、僕らも二階に向かう。のっぺりと溶け出していた女は眼鏡に一言声を掛け、鞄を取り二階に向かう。食堂に人は居なくなった。



 5.
 赤黒い血溜まりで、綺麗に花が咲くテーブルクロスにお菓子がある。目の前で、無表情にサブレを噛み砕く女が居る。
 横には姉の身体が、姉の手は頭部を掴んでいた。青ざめて下膨れた姉、あらわにさせていた額から鼻にかけて、白濁した液体がこびり付いていた。
 フランチャイズチェーン店――中華料理店なみに、床はねちゃねちゃと血が靴底に纏わり付いていた。ポタ……ポタ……と、天井にぶら下がる肉塊入りの袋から血液が滲み零れていた。
 四方に囲む壁は鮮やかに血を浴びて、印象画家の作品を呈していた。金銀混じる漆喰の土壁をキャンパスに、真紅の画材を丸筆平筆、または直付けして、四方各一面づつ計四枚の大作が出来上がっていた。そうして画材の真紅が酸化して、濁る赤は新たな美しさを表現する。
 窓から差し込む真っ赤な斜陽、徐々に闇が拡がってゆく。そして太陽は、山間に姿を消していく。光を背にする僕は、夕日に照らされてオレンジに染まる女を直視していた。
「ねえ、何にも入ってないからさ、ゆうちゃんも食べなよ」と女。
 少し考えて、僕はポテトチップスに手をやり、一口齧《かじ》る事にした。そうして又直視。女の情報を仕入れる。
「えっと、幽霊騒ぎだったけど、面白かった?」と僕は聞く。
「そうだね、びっくりしたかな? だってまさか私以外にいるとは思わなかったもの」と、女はサブレを齧りながら答える。
「まあね、一人目の死体が出た時に面白くなってきたよね、幽霊」僕。
「急にバタバタ死んでいくんだもん、えー私なの!? って、思ったわよ」女。
 身体を揺らし、ぼろぼろとポテトチップスをクロスにぶちまけながら、女は嬉しそうにはしゃぐ。クロスに残っていた乾燥しきれない血溜まりに破片は落ち、その血液を吸い上げていた。
「ねえ、人を殺したのはいつぐらい? 最近?」聞く僕。
「うーん、実は初めてだったりする。凄いねっ、あの感覚。しかも知らないうちに死体が増えていくし、本当にドキドキしたんだから、もう」下膨れが更に膨らんだ。
「それはごめんね、でもさあ、綾ちゃんは止めて欲しかったなぁ……だって、僕の物だから、君のじゃあないよ。君よりさ、僕の方が感動が大きいはずだし……君を殺した時はどうだろう」僕は半笑いで女に聞く。
「お姉さんには負けるかな、でも、私……綾さんみたいになりたかったな」女は残念そうに答えた。
「そう、でも綾ちゃんの代わりは出来ないよ」僕。
「どうして」女。
「最後の時に教えてあげる」と僕は笑った。
 もう血液は固まるだろうと思うが、いまだ天井から吊られる生ゴミより、酸化した肉汁が垂れ出している。それらが、女のブラウスを茶色く染めていた。手に取ったチョコレートは、やけに鉄の味がする。成分として入っている鉄分とは違うみたいだ。
 雨どいからポタポタと落ちる雨のように、天井から黒い雨が降っていた。紅い体液が変色してコールタールとみがまう程だった。



 6.
「あ、綾ちゃん……出る」
「出るの?……いいよぉ」
「あやっ……んんっ!」
 僕は姉の口内に白い液体を出した。股の間に顔を埋めていた姉は起き上がり、幸せそうに微笑む。唇から零れ出した白濁した液体は、黒い生デニム地のスカートに落ちてシミになる。姉は勿体無さそうにして、喉を鳴らし液体を飲み込んだ。
 その時いつも思う事は、その下膨れに液体を溜め込めないか、という事だった。飲んで欲しい時に飲ませたい。僕の悩みの一つだった。
 あの幽霊がどうのこうのの、眼鏡講座の後二人で二階に上がり、僕は自分の部屋に荷物を置いて、すぐに姉の部屋に来ていた。当然の事、僕も姉もあの恥辱プレイをして我慢の限界だった。姉の部屋に入るやいなや姉は僕のズボンを下ろす。トランクスも同時に下ろし、硬化し続けていたモノを咥える。咥えながら姉は自分で裾を胸の上部まで持ち上げて僕の手を取り、おっぱいに当てた。何かと外しやすいため、常に付けさせていたフロントホックのブラジャーを外し弄った。今日はショーツと揃えたオレンジのブラジャーだ。
 姉の口元から溢れ出した液体は、更にオレンジのブラジャーに引っ掛かり、パステル調になり色鮮やかだった。それが繊維に染み込んでいく、汚れたオレンジのブラジャーにかわった。それも又、色鮮やかで綺麗だった。
 それよりも綺麗なのは、小ぶりなおっぱいに掛かる白が雪の様な肌の谷間に溜まると、シャーベットのように見えて感動すら覚える事だ。しかしシャーベットと思って食べると苦いのは、どうにかしてほしい。その時、姉に「ゆうちゃんのえっち」と言われるのが、もう堪らない。
 そうして事終えて、クローゼットからタオルケットを持って来て、姉と二人重なり合う。ミルクのような匂いのする姉に抱かれて、仮眠のつもりがベッドでしっかりと寝てしまった。姉に頭を撫でられながら、深い眠りにつく――僕と姉が目覚めることになったのは、一階から悲鳴が聞こえた時だった。


 ☆


 ――「誰かぁ!」――
 僕の身体は揺さぶられる、目を擦りながら身体を起こすと、心配そうな姉の顔があった。
「何?」
「あのね、一階から悲鳴が上がったみたいなの」
 ――「いやぁああ」――
「ああ、面倒くさい」僕は言い放った。心配そうな面持ちの姉の額にキスをする。「綾ちゃん、もっかいしよ?」寝起きの僕の下半身は生理現象を受けて、硬化していた。
「でも……廊下がバタバタと音がしてるから、誰かに呼び出されるかもしれないし、ゆうちゃん……途中で止めいといけなくなったら、ヤでしょう」
 困った様子で、姉は口元に人差し指を当て、眉と眼が垂れた。確かにそうだった、途中で止められると、止めたそいつを殺してやろうと思うのは、過去の経験から物語っていた。
 僕は立ち上がり、膝までずり落ちていたズボンを上げる。姉はベッドの下に、畳んで置いておいた汚れたスカートとチュニックを着て、手ぐしで髪の毛を整える。「綾ちゃん行こうよ」と声を掛けて、手を繋いで一階に向かった。
「ゆうちゃん、いったい何があったのかな?」
「知らない」
 一階に着くと、食堂の辺りがざわついていた。姉の手を引っ張りながら、入り口に差し掛かった。入り口に三人程男が、でくの坊のように立っていたので背を叩く。「どうしたんですか?」と一人の男に聞いてみた。無言だった。
 仕方なく肩をぶつけ、食い込むように乗り出して食堂内に入ると、目の前に女がテーブルの上に横たわっていた。食堂内にはメンバー全員が揃っていた。センスのある染まり方をしている、血染めのテーブルクロスが目に入った。染まり上がった真紅のテーブルクロス、食い入るように眺めた。
 そうしてテーブル前に呆然と立ち竦む眼鏡と、その横で泣きじゃくる近藤の叫び声で我に返った。
「いやぁぁぁ、杏ちゃぁん」
 近藤は杏とか言う女の名を呼びながら、その死体を揺さぶる。眼鏡は振り向いて叫んでいた。
「コレは、これは幽霊の仕業です。私たちは全員幽霊に殺されるのです!」と、訳の分からない事をほざいていた。さっぱり意味が分からない。
 僕は姉の手を取ったまま、その美しい死体に近づく。姉の手は乾いていた。さらさらでぽにぽにして気持ちよかった。
 死体の前に着くと、足元で近藤が泣き崩れていた。上目遣いで近藤は僕を一瞥して、すぐに蹲り引き笑いのよに泣いていた――近藤の潤んだ眼の奥が、くすんでいるように、見えた。
 シャンゼリアタイプの蛍光灯が煌々と輝く中で、死体は仰向けに転がっていた。手と足はだらりとテーブルから垂れ下がり、失禁の跡が在った。あまり真紅のクロスに合わない色彩だった。黄は混ざる際、濁り方が悪い――このションベン跡は確認したくなかった。
 すっかり陽は沈み、虫の鳴き声が聞こえてきていた。
 死体の顔はどうでもいいので、殺害の原因を探る。まあ血の出どころから原因は分かった。背中から血が溢れ出し、クロスが血を吸い上げていた。ちゃぷりという音と共に、テーブルと背中の間に手を差し込んだ。脊髄に沿ってぱっくり二枚に下ろされているのが感触で確認できた。
 ――明らかに刃物で裂かれていた。
「ねえ、ゆうちゃん……怖いねぇ」
 そう言って、姉は死体を触る。たぷたぷとお腹の辺りを叩きながら、僕に眼を向ける。「死んじゃってる?」一言聞かれ、「幽霊に殺されたんだよ」と嘘だと分かっていて僕は呟いた。
「怖い怖いよう」
 姉は怯えることもなく、死体をいじくり回す。
 この光景が、メンバー内では異様だったらしく、さめざめした雰囲気に包まれる。僕と姉は、メンバーに白い眼で見られているのが分かり急いで姉を小突いた。姉はコクリをいつのもように可愛らしく頭を下げて、僕の腕にしがみ付いた。
「ゆうちゃん、幽霊、幽霊。こわいぃ」そうやって怯えさせた。
 姉の仕草は、どれもが僕の下半身を硬化させるには十分だった。小刻みに震えながらしがみ付いて、おっぱいを歪ませる姉は最高だった。
 先ほど幽霊だとか、馬鹿馬鹿しい事を口にしていた眼鏡は、近藤の肩を抱いている。根拠も何もない状況で幽霊と言い続ける眼鏡は、気が違っているのかと思わせる程可哀相な方だった。敬語を使いたくなる程痛々しい――まあ幽霊騒ぎに対して、何かあると思われる。
 僕は僕で、幽霊騒ぎの方が今後の展開を考えると都合が良かった。
 怯える芝居の姉を抱き「大丈夫だから、大丈夫だから」と言い聞かせる素振りを見せて、姉の手を取った。後は、そっとズボンに手を近づける。姉は「いやんいやん」と声を張り上げながら、おっぱいを押し付けて、硬化したモノに手を添える。
 僕は死体を眺めながら「死体、綺麗だよ……」と囁いた。
「皆さんとりあえず、部屋に戻って避難して下さい。逃げるにしても何にしても、一旦部屋に戻って荷物をまとめて下さい」眼鏡が鬱陶しく吠える。
 それを聞いた男どもは一斉に逃げ出し、食堂から姿を消した。残ったのは僕と姉と、女二人と死体だった。
「むべぁ」という格好の悪い、雑魚の奇声が聞こえたのは、男どもが逃げ出した直後だった。



 7.
 さて、目の前の近藤には興味をそそられないが、幽霊騒ぎの総括的な話で盛り上がりをみせてた。相変わらずポタポタと、天井の物体から赤黒い雨が降り注ぐ、そろそろ肉汁が固まり始める頃だった。
 血が溜まる皿に盛り付けられていた菓子は、そろそろ無くなりかけていた。最後のチョコレートを取ろうと手を伸ばしたが、一体チョコレートなのか、酸化して結晶板が凝固した血液なのか、イマイチ分からない。仕方なく両方取って口に入れた、変な味がした。体液に関しては、姉の愛液が一番美味しい。
「近藤さん、ちょっと話しが面白くなってきたから、食べ物探してくるよ」
「近藤なんて嫌、綾って呼んでよ……」
「鈍器で殴るよ?」僕は冷めた眼で一瞥した後、笑顔をみせた。
「ごめんなさい。じゃあ、結衣って呼び捨てにして」しゅんとした後、近藤は満面の笑みを浮かべていた。
「やだ」僕は結衣《ゆい》とかいう名前を覚えるわけがなかった。やはり必要性が感じられない。
 僕は調理室に行って冷蔵庫を漁る。冷蔵庫を開いてみてもライトは点灯しなかった。眼鏡が持ってきたであろう食材は、案の定どれもこれもが腐っていた。一人目の死体が出た時、既に電話回線は切られていた。二人目の死体が出来上がった直後、電柱と建物の間に電気線は二つに分かれ垂れ下がっていた。庭先で高枝切りバサミが発見された。
 冷蔵庫の中にある異臭放つ食材を諦め、足元に転がる死体を小突き、仰向けにさせた。僕はしゃがみ込み、面白いように素敵な角度にへしゃげる関節を払いのけながら、全てのポケットに手を入れた。しかし、何も入っていない。 邪魔だったので、固く絞った濡れ雑巾のような死体を転がし壁際に追いやった。
 僕は年代モノのキッチンコンロの前に立つ、最後の仕上げに入った。コンロの元栓を全開にして、スイッチを入れる――チチチチ……いい感じに火花が走り青白い炎が付いた。姉の居ない生活など生きるに値しない、素敵であり哀しい出来事を、近藤と会話した後どうなるか楽しみしだ。――「ふうう」と炎を吹き消して、無臭のガスは垂れ流しになった。
「やっぱり何もないよ」と僕は調理室のドアから顔を出した。
「でしょう、あと食べる物っていったら……そうね、私かなぁ」近藤の背中しか見えなかったが、下膨れがどうなっていたのか気になった。
 姉と同じ下膨れの頬が僕を殺意から遠ざける。同じ感覚、ベビィフェイスでロリ顔のため近藤に殺意が芽生えない。しかし姉とは違う――決定的な違いが、近藤を受け入れないでいた。その癖、姉になりたがる……僕は嫌悪感を覚える。奇妙な感覚に捕らわれていた。
 奇妙な関係、それは僕にとって普通だった、姉にとってはどうだったのだろう、近藤にとっても普通なのかも知れない。


 ☆


 食べ物は無いが気にせずに、幽霊騒動の話しに華が咲いていた。近藤は床にガスがはっている事に気が付かず、話は弾む。紅い陽は落ちきって、辺りが暗闇に覆われだしていた。
「でね、優子が言うのよ、男は誰も殺してないのにって」
「へえ、そうなんだ。んで、優子って誰?」
 近藤は指を天井に差して、「この子」と言う。袋詰めされて天井から吊られている肉塊の事だった、唯一雨を降らせていた肉だ。見上げてみると、携帯ストラップの様に眼鏡が袋に引っ掛けられていた。
「あの眼鏡可愛いでしょう? アクセサリーみたいで」と近藤はけらけらと笑いをあげる。
「そうだね」と僕。
「優子が最後で、それで今ゆうちゃんと一緒に居るの」と、近藤は物憂いしくマジマジと僕の方に見入る。
 眼鏡っ子が最後、近藤に殺されて幽霊騒動の話しは終っていた。食べ物の無い晩餐会は続く……
 近藤は「少し暗くなってきたから」と言って、調理室に蝋燭を取りに行った。電気が断線しているため、蛍光灯が点かない。すると奥の調理室から嘆いた声がした「蝋燭がないわ」と。
 垂れ流れるガスに引火してもつまらない、僕は漆喰がキラキラと輝く土壁に近づき窓を閉めた。
「月夜のが綺麗だ……星が取れるようだよ」と、僕は調理室から出てくる近藤に向かって振り向いた。
「本当ね、ゆうちゃんも素敵だよ」と、斑模様《まだらもよう》のブラウスを近藤はなびかせる。
「蝋燭はいいよ。そうだ、入り口を閉めてよ」と僕、密閉したかった。
「どうして?」と近藤、不思議そう。
「ほら、幽霊が入ってきたらやだから……二人になりたいな」僕はウインク、半分嘘混じり。少しづつ近藤に惹かれていた。
「ゆうちゃん……ばかねぇ、幽霊は私とゆうちゃんだよっ」にぃっこりと笑み、たっぷりとしたフレアロングスカートは翻った。
 黒のロングスカートは幾重にもなる裏地によって盛り上がる、血痕が水玉模様のように浮かび上がるスカートの表面は、まるで姉のスカートのようにシミになっていた。僕の分身が繊維に侵食して干からびて、取れないシミになったように、スカートは血痕で汚れていた。
「近藤……座って」僕は近藤の椅子を引く。「ありがと」と答えて椅子に座った。そうして隣に座り、向かいの姉を眺める。手元にある姉の頭部は、額から鼻にかけて伸びていた精子が口元に入り込んでいた。半開きの唇から進入していた。卑猥だった、しかし綺麗で美しい。
 眺めていた近藤も「綺麗ね……」と囁く。「いつでも私に言ってくれれば……」と、近藤は羨ましそうに視線を向けていた。僕は「じゃあ、これから」数時間後の事を楽しみにしながら答えた、ガスもプレイも、と想いながら。
 楽しく情報を交換していると、そろそろ幽霊騒動の話題も尽きてきて、自然とお互い持ち合わせる異常性と、その性癖について意見を交わすようになってきていた。
 じわりじわりとガスは充満していた。調理室と繋がる食堂は広々としていて、気を失うまでには、じゅうにぶんに時間はあった。終焉までのカウントダウンが始じまる。


 ☆


「さっきも聞いたけど、人を殺したのは初めてだって言ってたよね」と僕。
「うん」と近藤。
「初めて生き物を殺したのは何で、どうだったの?」僕の質問に近藤は眼を輝かせる。
「うんっとね、初めはペットのヌコちゃん」オーバージェスチャーで猫の形をとる。
「可愛かったんだぁ、溺愛だったの。ヌコちゃんの名前はタロスケ。でもね、最初は事故だったのぉ……雨の日にね、手摺りから足を滑らしちゃって、そうしてマンションの八階から落ちちゃって、四本とも足が変な方向に向いちゃってて、もう駄目だと思って」悲しげな近藤。
「それで」と僕。
「それでね、マンションの公園に埋めたの……もう助からないって勘違いしちゃて、ドロだらけになりながら、一生懸命埋めたの。うんしょうんしょって、そうしてタロスケ見てみたら、足が土からハミ出しちゃってるの……」近藤は頬杖を突き、物思いに吹ける。
「足……動いてたんだろ」と悪戯っぽく聞いてみた。
「うん!」イキナリ近藤の曇りがちだった表情がぱっと明るくなる。「埋めちゃった後に気付いたらタロスケ、ピクピクしてるの、雨も降ってるでしょう、どんどんタロスケ動かなくなってきて……ゆうちゃん、その時の気持ち、わかる?」近藤は肩をよせる。
「今は分かんない、感覚が麻痺してるから、あの当時だったら分かるかも……」僕。
「凄いよゆうちゃん、そこまで逝っちゃってるんだ」クスクスと笑い「あのねあのね、タロスケが死んじゃうぅって苦しいの、でも……きもちいの。背筋からぞくぞくぞくぅってして、でも胸がきゅぅうって刺さるように痛くて、でもドクンドクンって内側から心臓が飛び出しそうで、訳がわかんなくなった」近藤は手を胸に押し付けて嘆く。
「へえぇ、僕と少し似てるね」マジマジと近藤を見据える。
「そうかなぁ、だあって綾さん殺そうとか思わないでしょう? 私は殺したくなるもの」近藤の眉間にしわがよる。
「僕はそんなに強くないから、愛している人を殺せないよ、その気持ちは分かるけどね。で、近藤は訳わかんなくなってからどうだったの? 続き教えてよ」聞く僕。
「うん。訳のわからないまま家に帰って、ベットの上で大声で泣いたの。でもね、心の中ではカラ笑いが続いてて、ゆうちゃんには見せられないぐらい赤く腫れて、むくんでた。それでもわんわん泣いて、もう枯れるんじゃないかってくらい泣いて、タロスケのこと考えたらドキドキが止まらないし……複雑だったなぁ」口を瞑る近藤は、天井から吊られ血が滴り落ちる袋を見上げる
「そうなんだ」と僕は合槌を打つ。
「私ね、あと九官鳥飼っててピヨちゃんって言うんだけど、その子がダイジョウブダイジョウブって励ましてくれるの、ユイ――イイコイイコってね。思わずピヨの所に走って、籠からピヨちゃん出してきて思いっきり抱きしめてた」近藤は自身の肩を締め付ける。
「で、殺しちゃったんだ」僕は確信を突く。
「ゴキッって、首の骨を折った。ピヨちゃん、ダランとして、最後の言葉は……ユイヲマモルだった」近藤は徐々に震え出す。
「どうだった?」何食わぬ僕。
「正直に言うね、その時はまだ殺すつもりはなかったの、ピヨちゃんに慰めてもらって嬉しかったな。私寂しがり屋さんだから、ペットを何個か飼っててね、ピヨちゃんありがとうって……でも、その後、タロスケの剥き出した足を思い出したら」近藤。
「思い出したら?」僕。
「体が勝手に動いてたよ。身体と頭を両手で持って……捻っちゃってたの、気持ちよくね。それでも意識だけはしっかりあって、鮮明に覚えてる」乾いた表情――眼は笑っている。近藤の手は小刻みに震える。
「その後は?」近藤の本質を導こうと僕は眼を直視して離さない。
「逝った」強張っていた……その近藤の面持ち。「その時は何の事か分からなかったけど、今は解る。思いっきりイッてた。高校に入ってから処女失って、その後にハッキリと、あの時逝ったと理解した。ピヨちゃんが決定打、好きな物を全て壊したい、好きになったら壊さずにはいられない。壊す事で快楽と自分の存在価値を見出す」近藤の地が現れた。
「ねえねえ、近藤。キャラ戻ってるよ」僕は大いに面白かった、近藤に対して下半身が微かに硬くなってきていた。
「もう、近藤……地が出てるって」僕は大口を開けた。笑いが止まらない。
「本当だ」近藤も笑う、大口を開けて。
「西城君、折角だから地で行くよ。私はお姉さんも好きだった、可愛らしくて、お茶目で、そして西城君に溺愛されている。それを調教と言うのかも知れないが、私に無いものを持っていたから憧れもあったし、お姉さんも好きだった。私は西城君が好きだから、お姉さんの位置に立ちたかったんだ」地の近藤。
「だいぶ壊れちゃってるけれど、結衣だっけな、罪悪感は……ある? 怖い?」僕は確認をする。
「罪悪感は解らない、もう無いと思われるが、恐怖感はある。このまま私はどうなるのだろうかって、それは思うな。あと結衣で合っている」近藤は無表情で首の無い姉を凝視。
「そう……結衣の事、誤解していたみたいだ。綾ちゃんと同じ方向性だよ」僕、少し近藤が分かりかけてきた。
「西城君。お姉さんの事、聞かせて貰えないかな? お姉さんのようになりたい上、お姉さんを知りたい。そして西城君の事も」身体を向かいに合わせ、近藤は僕を直視。
「そうだね、いいよ、聞かせてあげる。その代わり、綾ちゃんになれと言えば綾ちゃんになれ、そして結衣になれと言えば結いになれ、それが条件。僕は綾ちゃんの話をしながら、綾ちゃんと一緒に居たい。君は綾ちゃんで話を聞け。分かった? 綾ちゃん」と僕。
「うん! いいよぉ、ゆうちゃん、おねがい」と近藤だった。


 ☆


 その直後、近藤にブラウスのボタンを外させた。乾燥した液体に塗れたオレンジのブラが、胸元から飛び出した。中に手を手を入れ込んで弄り、「バストは?」と聞いた。近藤は「いつもさわっているのに……88cmだよぅ」と答える。
 まあ、悪くないな。もう少し小ぶりの方が良いと思いながら、ぐいっと耳元へ顔をやり、息を吹きか掛けて囁く「硬くなってるよ、さわって」と。すっと近藤の手を取って、「ほら、綾ちゃん」と今度は軽く耳を噛んだ。
「今じゃなきゃ、ダメ?」
「うん、駄目」
 首の無い、手には顔が置いてある姉さんに見つめられながら、手淫が始まる。近藤の免疫が無い硬化したものは、新鮮な感触を楽しむ。二、三度擦られて、すぐに射精した。程よく精子がほとばしり、姉が履くヴァンズの赤いハイカットのスニーカーは、真っ白になって染み込んでゆき、そうして汚れた赤いキャンパスの生地が現れた。――ありえない程の量が出た。
「はあはあはあ……」
 僕は近藤の膝に頭を乗せる。テーブルの下で姉と目が合った、喜んでいるのか悲しんでいるのか、微妙な表情をしていた。
「ゆうちゃん、気持ちいかった?」
 ふくよかな腰を抱きしめてた。徐々に愛おしさが芽生えてきていた。近藤の膝の上で、僕は姉との経緯を語り始める事にした。
 ほどほどに、ガスは室内に充満していると感じていた。近藤は真新しい姉さんになりながら、僕の頭を優しく撫でていた。僕と近藤は生臭い匂いがした。

  1. 2006/11/26(日) 05:25:39|
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死線(仮) 4章終了 素直クール作品 

 精子を胎《なか》にぶちまけていた。回数は分らない――ただただ、ぶちまけていた。ソラの視線はどこへ向かっているものなのか分からない、焦点が合っていない、少なからず僕に向けていることだけは分かった。
「うっ、うっ……ん」
 だらりと、だらしなく唇は歪み半開きの口元、ソラの喘ぎ声が室内を泳ぐ。数時間が経過したと思われる、脱力したソラの身体を擡げて陰茎に刺激を与え続けた。灰色の空が窓から浮かび上がり早朝になっていた。僕はソラの身体を抱き締め、正常位の体勢で身体の量感を味わう。そして乳房の谷間に顔を埋め、陰茎を動かしていた。
 ――あぁ、気持ち……いい。
 既に陰茎に角度をつけて膣内を突く事はせず、真っ直ぐ子宮口に向けて出し入れをしていた。快感のみを求め出し入れ、膣の内壁が陰茎に纏わりついて適度な刺激を与えてくれる。発射感が込上げてくるとソラにお願いをする。
「ソラ、お尻に力を入れてっ」
 きゅぅと膣口が締まり、陰茎が締め付けられシゴかれているようになり、相当気持ち良くなる。一気に駆け巡る快感、陰脳が縮み、腰の動きが加速する。
「ああ、ああ、あぁ――」
 ハスキーなソラのヴォイスの中に喘いだ甲高い声色が重なり合い、甘美な和音はヴァロックの音色を奏でいる。
「逝く逝く逝く――ソラァ」
「うん……」
 ソラの両手が背中に回りぐいと引き寄せられる、両脚もしっかりと腰に絡めソラに引き寄せられる。小刻みにピストン、強く互いに抱き締め合い――そして深く唇を重ね合う。汗が雑じる乱れきった髪の、甘い匂いを吸い込んで、膣内にぶちまけた。
「満足した?」
 唇を離し、僕の頬を撫でながら、ソラは目尻を垂らした。くすっと悪戯っぽく笑い、ソラは伺った。
「なんというか、毎回満足はしているんだけど……硬化すると、またしたくなるんだよね」
「女冥利に尽きるね。私の身体で、そんなに興奮出来るんだから」
 ソラはほほえみ、僕はキスをした。
 膣内に陰茎をはめ込んだまま、ぐったりとしてソラの身体に身を預けた。汗でべトついて粘着するが、不愉快感は全くといっていいほどない。ソラのぽっちゃりとした身体に包まれたい、と僕は強く抱き締めた。
 もう――数え切れないほどソラの膣口に精子を発射を繰り返すと、感覚が麻痺を始めてた。頭の中が真っ白になり、思考は低下。ソラも性行為に慣れてきて膣で快感が得られるようになっていた。押す突く引っ掻いてを行うことによる快感をソラに与えていた。が、現段階まで到達すると自身が気持ち良くなりたいがために、内壁の肉感と膣口を閉ざすことによる快感を求め続けていた。
 やもすれば頭をシェイクしてやるとカランカラン――と乾いた音が、脳が可哀相ことになっているような、意識が消し飛んでいるような、気もしないでもない、こともない。あきらかに、この思考ですら混沌としていた。
「ソラァ、ちゅう……」
「ん」
 口を尖らせたソラが状態を持ち上げた。上半身が持ち上がり、質感を堪能していた僕はずるりと落ちていく――たぷたぷのお腹を経由して、太ももに緩やかに包まれて、柔い股に埋まった。ソラは僕の頬に手をやり、キスをしようと近づく。面持ちは無表情で目は虚ろ、身体はふわふわとしていた。
「う……届かない」
 ソラは身体を曲げきると、太ももに包まれる僕の顔に唇が届かないことに気が付いた。状態はピタリと固まり、「そりゃぁ、そうだ」と嘆いた。放心状態のソラに、僕は手突いて状態を反らして唇をつける。そのままソラを押し倒して、互いに脱力した身体を重ね合った。
「朝だね」
 汗だくの、マグロのような身体をソラに預け、窓を眺める。もくもくと膨らむ雲は緩やかな風に流され、その膨らみの谷間から太陽が見え隠れしている。谷間に埋まる太陽は光を放ち、辺りを照りつけていた。
 僕はソラに髪の毛を撫でられながら、壁に掛かる時計に視線をやった。
「ソラ……もう六時だって」
「アレから六時間弱かぁ――頑張ったね」
「僕は三回目ぐらいから記憶が、ないけどね」
「私なんかは、始めてすぐに意識が飛んだよ」
 艶がなくなった、くしゃくしゃのソラの髪を撫でる。地肌まで指を差し込み手櫛《てぐし》をする、汗と脂が指に絡まり合い引っ掛かる。僕は、ボサボサの髪を丹念に手櫛をつづけた。
「ありがとう。ボロボロだね、私」
「僕もね」
 すうっとベッドの下へ手を伸ばした。お互い身体の熱が収まり、発熱していた汗がクーラーの冷気を吸い込んでいた。少しひんやりとして身体が震える、ベッドの上で暴れていた拍子に落としたタオルケットを拾いあげる。無造作に転がるタオルケットに手が届くと、手の甲の上に手のひらがそっと、ふれた。
「クーラー切る?」
 ソラの一言だった。僕は思うところがあり、ソラの切ろうとしていたリモコンを取りあげた。
「駄目――寒い中、タオルケットの中で暖め合うのがいいんじゃなの」
 ひょいとタオルケットを持ち上げ、ソラと共に包まるようにタオルケットを被せた。二人して包まったタオルケットから顔を出して、見つめ合う。
「そうだね、何の為の脂肪なの、ってことね」
「あぁ、そういうこと」
 朝日が昇り、早々に鳩が喉を鳴らして戯れていた。そうして、ソラに「おやすみ」と耳元で囁いた。ソラの身体に被さり唇を重ねる。僕は寝るつもりだった。
「んっ、おやすみなさい」とソラは、僕の首元に腕を回して頭を撫でる。ソラの、全身のやわらかさを感じながら、寝息を立てた。――ところだった。
「ねえ、下に当たってるんだけど……する? いいよ」
 最後のキスとやわらかい肌の感触が、いやがおうなく下半身を反応させていた。さわさわとタオルケットの中でソラの手が弄る、陰茎がソラを感じると――既に膣の中に入り込んでいた。僕は無意識にソラの身体を力を込めて抱き締めていた。ソラも同じくして、僕の身体を抱き締めた。
 僕の腕はソラの腋の下へ回り、ソラの腕は僕の肩を掴んで引き寄せる。僕の脚は真っ直ぐに伸びきっていて、ソラのふにふにの脚は、僕の腰に絡みついてしっかりと食い込んでいた。
「逝くっ」
「はい……」
 数分で果てていた。ソラと僕は、繋がったまま眠りについた。
 その日の深夜目を覚ますと、陰茎が膣口に入り込んだままだった。生理現象により陰茎は充血し膨張した、ぐっすり眠っているソラの唇を無断で奪い、僕はピストン運動を始めた。夜は――まだ始まったばかりだった。
  1. 2006/10/29(日) 03:22:21|
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死線(仮) 4-2~一区切り. 素直クール作品 

 天井にある煌々と光を放つ蛍光灯は僕たちを照らし、鼓動に似たクーラーの振動音が部屋中に響き渡っていた。窓はしっかりと閉じられ、床とドアの隙間から音をなして暖かい風が冷えた室内に入り込む。視界に入る情報が脳内で飛び交う中、僕達は見つめ合い会話を交わしていた。必要最低限のモノのみ置かれた殺風景なソラの部屋、フェチズムによる性欲が高まる中で静かにときが進む。心臓から流動する血液の奏でる音でさえ、触れる肌を介して伝わりそうなほど伝わる。見つめ合いながら額を密着させ、抱き締め合っていた。
 深夜、一軒家の二階に位置するソラの部屋に居た。一階には両親がリビングにて、TVをつまみに談笑を繰り返している。ソラの彼氏という名目で両親に軽く挨拶し、約一時間ほど拘束された。趣味や部活など、取り立てて気にもしていないデフォルトのようなやりとりを強要され、顔面神経痛のようになった頬の筋肉が痛みを訴えてきた頃、ようやく解放され二階にあがることを許された。引き攣った頬は小痙攣が続き、表向きは微笑の、実として苦笑が止むまでには時間が掛かった。
 目前に現れているソラの裸体は僕をニンマリとさせ、特に腋《わき》の付け根にあるぷっくりとした脂肪は数本皺が寄り、苦笑から笑みに変わると頬の痛みが再発した。やわらかい耳朶のような食感の腋から盛りあがる脂肪は、乳房からの贈り物のように視覚からしてもそそられる。その皺の間の汗ばみと共に舌を這わせ啜りたい。夕方――我を失って漠然とソラを感じた時とは違い、細部に渡るディティールを確認すると、その秘めた可能性が窺い知れた。
「君はマジマジと私の身体をみるが、どう? 満足出来そうかな」
「うん、良いわぁ……この身体。完成形ではない所が、特に良いよね」
 掌をソラの顎の下に置き、“下膨れ”になりつつある頬を撫でる。僕は「ソラ、頬に空気を溜めて膨らませてみて」目を垂らし、ニッコリと笑みを浮かべる。
「こうか?」
 受け皿を作るように掌を弓なりに曲げてやると、頬が膨らんでゆき、ぴったりと“下膨れ”の形《なり》に仕上がった。ソラの少し大人っぽい切れのある雰囲気がまあるくなってゆき、求めていた幼さが露になる。本来あるべき姿の、高校一年として当たり前の姿を取り戻した。
 元々持ち合わしているソラにある可愛らしさ、それがこの“下膨れ”だ。あまり物事に干渉されないと推測されるソラでさえ、俗世間の流行り廃れに流される――主流でなければ絶対悪だと周囲から圧力を掛けれる、そのためにある程度の調整をしないければならないソラは、いやがおうなく時期早々に大人へと姿を変えていった。ホダネとの違いは、ソラの肥りにくい体質による体格的ファッション系列の移行にある……すらりとした華奢且つシャープなボディラインは、美しさに直結してしまい、必然的に同世代の憧れである美しさイコール大人のファッションスタイルに身を纏ってしまう。可愛らしさへ繋がる“ぽっちゃり”になりにくい身体のソラは、如何せん残念だが世代通念上例外はなく美しさに移行してしまった。僕にとっては、嗜好の対象である女性の絶対数が一方的に減少していく現実が我慢ならない。エロカワ系とはいわないが、称してその下らないレベルの雌にから、可愛らしい“おぼこい”子に近づく女性を救えたとこに安堵を覚えた。
「ちゅうしていい?」
「いいよ」
「でも下膨れは、そのままにしておいてね」
「はいはい」
 ソラの下膨れを眺めていると急激に愛情が込み上げ、その“下膨れ”のままキスをしたくなった。少し拗ねて頬を膨らましたようになるソラに欲情した、決して拗ねている訳ではないが結果そのようにみえたため、可愛らしく想えて擬似的に仲直りのキスをしたくなる。そして悪戯っぽく笑った僕に母性本能を擽られたのか、ソラは僕の頭を優しく撫でた。その微笑は母親の良い意味合いでの苦笑に感じ、異様に興奮を覚えた。
 ぷっくりと膨らむ頬を崩さないようにキスをする、軽くふれるフレンチキッスだ。舌を差し込んでしまうと頬の膨らみ、“下膨れ”が失われてしまう恐れがあるために、乾いた唇をふれ合わす。かさかさと乾燥した唇を楽しみながら、掌をへその辺りに押し付けた。胃が膨らみ、常に出っ張ったお腹は水枕のような弾力性があり、押すとたぷたぷとした反応が返ってくる。腰に載った脂肪を掴み、その感触が更に僕を興奮へと誘う。
 ソラは目を瞑り、じっと頬を“下膨れ”状態に保持させていた。僕は眼球を見開いて、その角度的に見え隠れする魅惑の“下膨れ”た頬を凝視する。乾燥したやわらかな唇を堪能した次は、ねっとりとした滑らかな唇を嗜む。一度唇を離し、額は付けたままソラが目を開くのを待つ。もう終わりかな、と思わせたその時に、厚ぼったい唇をべろりと舐め上げ、鼻先を掠めながらソラの唇に潤いを与える。そうして僕の内側の唇に唾液を載せ、ソラの唇に重ねた。滑らかな唇同士は一旦ずるりと横に流される、気にせずに唇を戻し、むにむにと唾液のため抵抗が軽減された唇を味わう。片方の掌はソラの手のひらと重なり合い、指とゆびがじゃれあっている。からかうようにソラの手の甲を掌で包んでみると、手の甲は翻り、しっかりと手の平が固く結ばれた。もう片方の掌はソラの首を這わし、首筋からうなじに掛けてゆっくりと上部へと沿わせてゆき、指を髪に差し込んだ。ソラは「んっ」と甘い吐息を洩らし、大事な“下膨れた”頬が少し萎《しぼ》む。僕は舌を、噤み皺の寄る上唇と下唇の間に当てる。押しやっていくとベロの面積が拡がりにゅるりと中に入っていき、口内に空気を押し込む。パンパンに膨らんだ頬は元の形状“下膨れ”に戻り、そっと舌を抜いた。眼を垂らしたソラを眺め、僕は差し込んだ指で髪の毛をくしゃくしゃと掻いた。
「んん――」
 殺していた吐息が一気に吐き出された――ソラの半開きになった口から、溜め込まれていた唾液が注ぎ込まれる。熱い唾が僕の口内いっぱいに広がった。触れ合う程度に弱まっていた手のひらに力が入り、ソラの身体は小刻みに震えた。
 僕は混じり合う唾液を飲み干してソラを抱く、抱きかかえるようにして背中を締め付けた。ソラの眉間には横に皺が寄っていて、ヒクヒクと縦に身体が激震する。僕はその姿に満たされ、耳朶に歯をあわせていた。脂肪によって曲線がなくなり始めた背中をなぞりあげると、そこにはザラついた感触が掌にあった。
 ソラの背中には、痛々しいまでの傷痕が刻み込まれていた、全体的にしっかりと瘡蓋が残っている。それらを捲ると、いまにもじゅわりと多量の結晶板が分泌され、透明な粘液に溢れ返りそうだった。僕は瘡蓋《かさぶた》をじっくり時間を掛けて舐め上げていた、日照りのために乾涸びた水溜のように、亀裂が犇《ひし》めき合う背中の瘡蓋を丹念に舐《ねぶ》り続けた。
 その間、ソラの身体を短期的にではなく長期的に思案してみる。努力家という性能を考慮すると、現在のホダネの身体――ぽっちゃりを極めつつあるホダネボディ、その燦然と輝く続けるボディを上回る可能性を見出した。ふくよかともいい難くデブではない“ぽっちゃり”、僕が求めうる究極の黄金比が、そこに出来上がろうとしている。残りは一つ……ホダネの持つ“おぼこい”子のポテンシャルと、付属する天然素材である“ドジっ子”の特性。それらソラにあれば、とないものねだりではあるが、仕方がない部分ではある。と明らかに、目前に広がるソラの裸体に魅せられ、興奮の坩堝《るつぼ》と化した僕は、“ぽっちゃり”としての正常な判断が出来かねていた。
 ――総じて、混乱の極みに達していた。


 ☆


「あ、そこ、そこが気持ち良い……」
「この珠ですか? ソラさん」
「そうです、電気が走るのです」
「解りました、舐めましょう」
「はい、お願いします」
 僕は両耳にソラの太ももの感触を楽しみながら、肉壁の頂上にある包皮された珠を舐める。膣口から滲み出るしょっぱい蜜を嗜みつつ、舌を内壁に沿って舐りあげる。寒天の感触に似た襞は舌の両側面に吸い付き、酸味の刺激を与え続けた。珠の質感は初体験の僕に驚きを与えた。やわらかいと想像していたが、思いのほかやや硬めで、透明感があった。夕刻、吸い込まれるようにソラの乳房を揉みしだいたあの質感と色合いとはまた違い、珠を透明な樹脂でコーティングしたような、深みのある肌色だ。紅葉したように、肌色の珠が紅く高揚していく。
「う、あう」
 ソラの下半身が急に跳ねた。ずるりと僕の鼻を肉壁が覆い、盛り上がった腰が僕の鼻をすっぽりと収めた。股に顔を埋める僕は圧迫され、ベッドに寝転がりながら咽び返る。押さえつけるようにして両腕を太ももに吸い込ませ、跳ね上がる腰元を固定して舐め続けた。――ソラの掠れた溜め息が静かに響いている。
「あっ……」
 クーラーの雑音と雑じり合いながら、ソラの喉を鳴らした濁る溜め息が、再度放たれた。僕の鼻は噴出したしょっぱい液体に塗れ、刺激臭が僕を襲う。しかしながら経験上嗅いだ匂いではなかったが、嫌な匂いではなかった。むしろ硬化した陰茎は更に充血し、これ以上にない膨張を始めた。
 このソラの、甘く零れた吐息は、オーガニズムに達した結果と感じ取った。ソラの身体は数回、弓なりに弾け飛ぶ。連続的に全身の筋肉を縮め、びくんびくんと蹲るようにしてビクついていた。僕は、その痙攣運動に合わせてソラの珠に舌をあてがう。
「こうですよね?」
 腫れあがった珠をネトついた体液塗れの舌で押し付けた。後は、ソラの上下運動がほぼ強制的に更なる快感を与えることになる。ちょんちょんと珠を舐ってはソラの甘い喘ぎを聞いて、腰が持ち上がり舌がズレれば膣口に軽く舌が差し込まれる。「あひっ」ソラの奇声が、追い詰める罪悪感を相殺していた。実に合理的といいますか、素敵な循環が繰り広げられていた。
「一度手加減をして頂いても、よろしいでしょうか?」
 絶頂中のソラの泣き声が静かな室内を走る。息が切れぎれになり、荒く息を吐き出した。
「なにぶん初めてのことなので、加減のしようがありません」
「電気が走りっぱなしで、切ないのです」
「そうですかソラさん。嬉しい反面残念です、だって加減が分りません」
「そうですか……」
「はい」
 からかっている訳でもなく虐めて楽しんでいる訳でもない、実際に加減というものが分らなかった。ただ、自制心の箍《たが》が外れていることは否めないが、しかしソラと僕の程度も限界も解らない中において、自制するといった行為を出来うるとは思えなかった。僕は、ソラを喜ばせ加速するフェチズムの境地を堪能し、お互いの満足を得る、その一心のみだ。
 素人の僕にも分るほどに、ソラの大陰唇は蜜に溢れ返っていた。過去に嗜好を突き詰めるため、ふとももをから始まりロリィタ体形――幼児体形を調べると共に性行為の学習も怠らなかった。一般的に隔たった僕としては、たかだか高校一年風情には持ち得ない性交渉の情報を膨大に蓄積させている。グーグル等ネットで調べた情報源を活かし、この濡れきった体液塗れの大陰唇を凝視するまでもなく、一瞥しただけで挿入可能だと判断した。
「ソラさん、入れますよ」と僕が、やわらかく包み込まれる太ももの合間から顔を出して伺う。
「舐めなくていいのですか」と、ソラは唇を半開きにして、不思議そうに答えた。
「そんなことしたら、出してしまいます。素人なんですから」
「そうですか、それは残念。では――入れてください」
 無表情にしているソラの表情の中に、恥らう頬の赤らみを見つけた。じっとソラの面を凝視すると、ソラはコクリと頷き、身体に入る力を抜いた。
 ――正直、フェラチオをして欲しいのは、して欲しい。お願いしたいくらいだが、限界が来ているのは確かだ。そのうえ、この瞬間にフェラチオを味わってしまうのは忍びないという想いで、埋め尽くさせる。あと数ヶ月、あと半年もすれば下膨れが完成する――見事なまでの“ぷっくり”とした下膨れのソラにフェラチオをして貰えれば、想像を絶するほどの快感があるはずだ。確かに、下膨れの形状だといった所で実感触に大差はないが……視覚を通して、下膨れによる可愛らしさを増加させたソラが、下半身に頬をよせ、ほお張る姿を必然的に距離感をとって眺める事になった場合。興奮や快楽といったものを数値に表してみたとすれば、即さまにフェラチオをして貰うよりも遥かに高い数値を叩き出すはずだ。
 僕は、だらりと開かれたソラの太ももの付け根に陰茎をあてがう。ソラの、びらびらと震える襞に亀頭をはめ込み、弁のように襞をぴったりと吸い付かせて膣口に蓋をする。この時点で既に亀頭を襞によって刺激され爆発寸前だが、息を静かに吐き出して堪える。
「ソラさん、多分入れた瞬間、出してしまいます」
「出ちゃいますか……ドキドキしますね」
 自身の分泌液なのかソラの分泌液なのか、雑ざりあった液体にヌメる陰茎をゆっくりと刺し込んでいく。ボコボコと浮き上がった静脈は、膣口を引っ掻いている。亀頭をすっぽりと呑み込むと肉壁に到着した。
 この時点でソラの胎は熱い、亀頭がじんじんと痺れるように熱い。気持ちいい、という感覚よりも相当に――熱い。想像では陰茎を、特に亀頭を膣内の柔突起ので刺激をすると思っていたが、この熱感は思考にはなかった。
 亀頭に当たっている壁は処女膜だろう。これを抉じ開ける訳だが、これが相当に痛いらしい。どれほどまでに激痛が走るのかは解らないが、出産時の激痛は、爪の間に針を差し込み電気を流すぐらいに強烈らしい。それほどまでに膜を破ることは、辛辣の痛みが走るのだろうか。僕は、ゆっくりと小刻みの出し入れをして、徐々に深くめり込ませていく。亀頭が襞から顔を出せば若干深く入れ込み、すぐに引いて、吸い付く襞から亀頭が顔を出せばと、自身の陰茎を確認しながら出し入れを続ける。
「痛くないですか、ソラさん」
「痛い……」
「うん――」
「が、がまん、我慢できる程度です」
 ソラは苦笑いを浮かべ、唇を震わせて、僕から視線を背けた。頬を赤らめ照れている様子。僕はそっと手を伸ばしソラの頬を撫でた。
「大丈夫……何が大丈夫か分らないけど、大丈夫だから」
「はい――」
「いくよ」
 コクと顎を引いて、ソラは縦に頷いた。ザンバラに乱れていた髪が、横に向けていた顔の側面にまとまりつかせ、水流のように泳いでいた。メリメリ……亀頭が接触する膜を少しだけ押す。ソラは掠れた声をあげる。恥かしげに僕から視線を逸らし、息を殺し、歯を喰いしばっている様子だった。
 何もいわずに耐えるソラは、僕を全面的に受け入れている。流石に腰の辺りは硬くなり力を抜いてはいなかったが、出来うる限り身を任せようと、必死に身体の力を抜いていた。
 この、いじらしく思える感じ……伝わってくる。愛情に近いが、それだけではない。説明がつかないが、入り混じった数え切れないソラの感情が――漂う空気感、見え隠れするほえる表情、膣からダイレクトに亀頭を通じて送り込まれる、その感情が膨大なエネルギーをして僕を充填する。ここにきて、初めてソラを愛おしいと認識した。フェチズムの実体ではなく、ソラという人間《コア》に、改めて愛情を認識出来た。
「ソラ」
「はい」
「ソラ」
 そのまま、膜に亀頭を当てたまま――進入した。
「うぐぅ――」
 膣の奥に陰茎を進めようとしたが、膣内の肉が進行を遮るようにして、その全容を窄める。
「力を抜いて、ソラ」
「ん……んっ」
 ぬとりと陰茎を引く、そして奥に押し進める。現段階で陰茎の約半分が膣内に収まった。過去に一度、病的名までに性について調べた際、自身の陰茎のサイズが気になり測定したことがあった。男性平均千五百ミリメートル、約15cmだ、自身のサイズは約17cm。まずまず可もなく不可もなくといったところだった。その適当なサイズの約半分がインサートされている訳だから、約8.5cm進入に成功したことになる。――思いのほか奥行きがあった。しかも、いまだ二分の一、全てを挿入すると……手持ちの携帯電話が、ずっぽりと膣内に入り込んでしまう計算になる。
 ――全く想像がつかない。愛液で陰茎が融解するのではないか、そのような感覚に囚われていく。
「ソラ――入れてしまうよ」
「はい」
 一度自身の腰を上げ、前に出した。根元まで入れ込んでしまうために、ぐいと腰の位置を変える。静かな部屋の中、背中と額――全身から汗が噴き出していた。汗を拭うことなく、僕はふと我に返っていた。この先が想像しえない領域。行為そのものは範疇であるが未体験の領域のため、経験からなる人間心理の動向が想像しようがない。好奇心よりも恐怖の方が勝り、戸惑いが襲い掛かった。首筋から背筋に掛けて一雫の汗が垂れ、ひんやりとした……
 この静かな空間の中においても、普段なら気にも留めないノイズ。振動とも取れるクーラーの作動音、温度差からドアの隙間から引き込まれるように入り込む風は、摩擦により低い衝撃音を発していた。青白く点く蛍光灯がソラを照らし、乳白色の滑らかなソラの裸体は雪国の幼い子供の頬のように鮮やかな桜色に染まる。照れを誤魔化すように、ぶっきらぼうに顔を横に向け表情は強張る。脂肪感が全身に載るぽっちゃりとしたソラの身体、美しさを欠き女性の憧れる美的感覚は崩れ去る身体、僕は感動すら覚える。太ももは内もも同士が密着しふにゃりと撓み、お腹はぼてっと膨らむがだらしなく垂れ下がることはない。腰の括れなどはなく一直線だ。乳房はまるまると大きく張りがあり、色付く程度に桜色の乳首と乳輪は乳首と乳輪の境目が分り難く、ツンと尖がっていた――美乳タイプの可愛らしい乳房。
 ――言葉にならない興奮と感動、求めていたフェチズムが手に入ってしまうことに躊躇してしまう感覚、凄まじく揺さぶられた。何故か申し訳ないと感じる反面、強烈な独占欲に駆られる。ソラが僕を満たしてくれると思うと、ただ嬉しいと幸せという抽象的な感情が充足した。
 僕はソラの腰を両手で掴んだ。腰の脂肪に指が吸い込まれ、たぷたぷと波打つお腹を持ち、ソラの腰を上げる。そして、残り約8.5cmの陰茎を挿入していく。
「ん――」
 ソラの殺したような吐息が洩れる。眉に無数の皺をよせた。亀頭の感覚では、全く分らなかった。が、しかし、確実に、ソラの苦悩に満ちた表情の中に魅せる愛情を感じると、ソラを奪ったはずだ。生涯に一度しか持ち得ない未使用品をデッドストックを、僕が新古品にした。何か重大な犯罪を犯した気持ちになる、コンクリートで塗りたくられた最南端の沖ノ鳥島を漁船で突っ込んだ感覚。手段や正当性はともかくとして、僕の手で何かを失わせた満足感と罪悪感――全身が痺れ打ち震えた。これが処女を、未開封の品を開封するということか……
「んくっ、んくっ、んくっ」
 多少でも陰茎の動きがあれば反応する身体。ソラは陰茎を引けば安堵の表情を浮かべ、突けば表情を歪め眉を顰めた。奥に侵入しようと押し出すが、膣内が窄まり進まない。引いて押してを繰り返し、何度も行ううちに徐々に奥へ入り込んでいく、時間を掛けてゆっくりと開拓していく。
「どう? ソラ、大丈夫か」
「――大丈夫。ちゅう、して欲しい」
 生い茂るソラの陰毛と自身の陰毛が絡み合うまでに陰茎が到達したあたり、ほぼ陰茎が膣内に消えたあたりにキスをした。手をそっと差し伸べ頬を撫でてやると、ソラは掌をぎゅっと握り締めて苦笑を浮かべた。その眉を顰めた強張ったソラの表情は、ほほえみだったと思われるが苦笑に間違えさせた。ソラの気持ちを痛感し、僕は両手をソラの頭に置いて、押し付けるように強く唇を重ねた。
 口付けを交わしたまま、ぬとぬととピストン運動を繰り返す。ソラの弱い息が重ねた唇の隙間から溢れ出す、幾度もなく目蓋をまばたいて、ソラは至近距離で僕と見つめ合う。額を重ね唇を重ね、互いの睫毛が重なり合いながら――最後、肌とぼってりした肌が密着した。
「全部、入った」
「はい――良かったね」
 “良《い》かったね”の言葉の中に、母性が唇越しに伝わってきた。額面通りに言葉の意味を取ると、陰茎が全て入り込み処女膜をぶち破ったことに対して僕が喜んでいる、といった意味合いになっていた。ソラにダメージがあり痛く苦しいはずなのに、僕の喜びでソラが幸せ――愛情を感じているように思えた。
 丸みを帯びた頬で、ソラが僕に対してほほえむ。僕は体勢を変え、ほのあたたかい乳房に顔を埋めながら、上目で視線をソラに流しながら、ヘコヘコと自身の腰を抜き差し、した。
「ソラ、ソラ、ソラッ」
 ソラの面は再度歪み、潤んだ瞳を僕に向け愛《アイ》コンタクトを取る。何も語らず、ただ息を殺し、喘いでいるような切ないような、含んだ吐息を洩らし続けた。

  1. 2006/10/23(月) 00:03:20|
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