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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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holy・night・fever

 素直クール系物書き様で、大変お世話になっているcoobard様のサイトが、十月で祝一周年になりました。お祝いにcoobard様が書いていらっしゃいます黙クールシリーズ《モクール》の二次をプレゼントすることになりました。が、しかし……現在十一月、既に一ヶ月を経過していますが、いまだ書き終わってはいません。(汗)
 予定では三十枚のつもりでしたが、前編で既に約三十枚。後編で、更にオマケ入りで三十枚に達しそうなので、ちょっとした中編になってしまいそうです。一応来週中には書き終わる予定なので、しばらくお持ち下さい。(ペコリ)


 ~追加~ 11/22深夜、やっと完成致しました。十一月中に完成しまして、ほっと胸を撫でております。オマケSSはこれからですが……


 素直クール作品の安定した供給、毎週木曜日早朝更新中――クーのいる世界
 黙クール短編 “黙して伝えて”“ポワソン・ダブリル”“ジル・オ・ランタン”
 このhory・night・feverは時系列的に“ジル・オ・ランタン”の次になります。番外編なので、ご容赦下さい。


 ではでは、祝一周年記念。黙クールシリーズ番外編“hory・night・fever”スタート。


 クーさんがチャットルームに入室しました。
 マミさんがチャットルームに入室しました。
 マミさんの発言:クーさんこんばんわです。最近どうですか?
 クーさんの発言:旦那と仲良くやってるよ。
 マミさんの発言:幸せそうで良かったです。今日は急に呼び出しちゃってスミマセン……(汗
 クーさんの発言:いや、いいよ。今日はどうしたの?
 マミさんの発言:親友のシズカいるじゃないですか、昨日彼氏と喧嘩しちゃって今日も泣いているんです。
 クーさんの発言:そりゃ辛いわな、何があったの?
 マミさんの発言:今横にシズカいますから、ちょっと代わりますね。
 クーさんの発言:了解。
 マミさんの発言:お忙しい所スミマセン。以前教えて貰ったスケッチブックなんですが、ずっと使用していたんです。でも昨日、国友君にスケッチブックに頼って、話す努力をしていないんじゃないかって。
 マミさんの発言:そう言われました。
 クーさんの発言:そう。私は言われたこと無いけど、色々考えてみようか……
 マミさんの発言:ハイ、お願いします。
 ――僕はここまでを見て、ブラウザーを終了させた。




 1.
 窓を開けると冷たい風が入ってきた。少しばかり遅い紅葉が始まり、秋の風情が感じられた。十一月を迎え、モスグリーンの空は何処か物憂いしさを与えてくれる。満たされているはずなのに、何故か穴が開いたような感覚に囚われていた。
 理由は分かっている、A4のスケッチブックだった。十二色のカラフルな水性ペンは可愛らしく、アイツにはピッタリだったが、それすらも鬱陶しく思えていた。しかしアイツのことを考えると、スケッチブックや水性ペンのことは言えない――アイツなりの頑張りを否定したくはなかった。
「とりあえず、寝るか……」
 六時間目の授業を放棄して、僕は眠りについた。ほどしてクラスメイトによって窓は閉められて、英語教諭による心地よい英単語の羅列オンステージが繰り広げていた。徐々に、ほのあたたかくなり、入れ替わった新鮮な空気は僕の鼻についた。柑橘系の乾いた、秋の香りがした。
 HR終了後、僕は鞄を攫い教室を出る。少し廊下を歩くと、背後から声を掛けられた。相川マミ、甲高い耳鳴りのする声色だ。
「ちょっと待ってよ国友、シズカが一緒に帰ろって」
 振り向けば、そこには大股を開いて仰け反った相川と、自然体に在する周防シズカだった。毅然とした姿勢で僕を見詰めている。
「今日は一人で帰りたいんだ」
「最近いつもそうじゃん」
 こう毎日顔を付き合わす相川に飽きた僕は、視線を逸らした。その先にはシズカがいる。目が合うと、頬をほころばせ微笑を浮かべた。
「そういう日もあるの」
 強い口調で相川に言い聞かせ、二人に背を向けた。きゃいきゃいと相川が何かを吠えていたが、僕は背を向けたまま、ひらひらと手を振った。すると程した頃シズカからメールが入った――明日は一緒に帰りましょう――とある。
「三人で……だろ」悪態が口から零れていた。
 携帯の待ち受けになっているシズカのコスプレが目に入ると、自然とニヤケていた、この前のハロウィンで、魔女に変身していたシズカのデータ。しかし、すぐに熱が冷めた。僕は――明日になんないと分らないから――と、返信した。
 そういえば最近、相川としか……喋った記憶がない。シズカの声って、どんな声だったっけな? 僕の中で、シズカは忘却の彼方へ飛び去っているように思えた。


 ☆


 自問自答を繰り返し、僕は薄暗くなった公園のベンチにいた。シズカと付き合い始めて約八ヶ月、正直本当に好きなのかが疑問に思えてきていた。
 シズカのことを想像する、整った面持ちの綺麗な人。黒のロングヘヤーに楕円形の黒縁眼鏡、シュッとした切れのある美人だ。はっきりいって、シズカには僕なんかは役不足だろう……適当な男は吐いて捨てるほどいる、そのぐらい僕のレヴェルは低い。根底に不釣り合いという土台がある上にスケッチブックの存在。マイナス要因が加味して、僕相手に会話なんて出来ない、と鼻であしらわれているような気さえする。違うのは解ってはいるが、シズカは、気持ちが表情にあまり出ないから真意が読みづらい、僕は確信が持てなかった。
 だからって冷たく当たるのも、どうかと思うけどね。と自嘲して、ベンチに横たわった。
 額に手をかざして空を見上げる。鬱陶しそうに木々が風に流され、葉を散らしていた。灰色の空は、一向に月の出る気配はなかった。
「マジで、あのスケッチブックがなぁ……」
 このままでいくと、スケッチブックがあればそれでいいと、シズカは思ってしまうかもし知れない。僕と話す努力を、止めてしまうかも知れない――一番危惧している所だった。
 根底に負い目がある僕は、例のスケッチブックで会話は十分だと思われる懼《おそ》れと、スケッチブックでシズカの成長を妨げてしまう惧《おそ》れが入り雑じっていた。
「なにしてんの?」
「へ?」
 すっと視線を声の方向へと持っていった。
「こんなところで」
 うちの制服の、プリーツスカートが見えた。肉付きの良い太ももがあった。キィの高い声、相川だった。
「考え事」
「シズカのこと?」
「――そう」
 ベンチから体を起こすと、相川は横柄に隣へ座り込んだ。相川には失礼は話しだが、接すると人肌が暖かかった。誰でもよかったような気がする、かなり気持ちが荒んでいると自覚出来た。
「国友ぉ、最近シズカに冷たすぎるよ」
「知ってる」
「なんでさ」
 僕は少しの時間、押し黙った。僕の気持ちを全て話そうか、と思ったが止めた。いくら相川に、僕の感じていることを伝えたところで、結局当事者の問題だ。僕とシズカで解決しないといけない話だ。
「僕らの問題だから」
「私にだって関係あるよ、このままだったらシズカが可哀相すぎるよ」
 それは解っている、そっとしていてくれ。相川にグダグダいわれる筋合いはない。
「五月蠅いな、その関係者面がムカつくんだよ。相川……お前シズカの通訳か? 保護者か? 彼氏気取りか?」
 無言がつづいた。相川は下を向いたまま黙り込む、両手は膝の上で固く結ばれている。
 薄暗くなってきていた公園は夜になり、備え付けられている街灯はパチパチとグロウに火が入り、辺りを光で滲ませる。昼間と違い、夜は肌寒くなってきていて、僕は掌に白い息を吐いた。
「なあ相川、多分お前と喋っている時間の方が、長いんだよ」
「そうかな……」
 背中を丸めた相川は、下を向いたまま、ぼぞぼぞ呟く。
「傍から見たら相川と僕が付き合ってて、シズカは友達にしか見えないぜ」
 相川はビクっと身体を軋ませた。そうして体を起こし、感情のこもらない苦笑を浮かべる。「そうだね」と、力の入らないしらけた言葉を残すと、ベンチから立ち上がった。
「国友、また明日――」
「あ、ああ……」
 ジッと据えた視線を僕に飛ばす、相川は何も言わず立ち去っていった。否応なく自責に追い込まれた僕は立ち上がり、ベンチに蹴りを入れた。ただ鈍い衝撃がするだけで何も変わらなかった、何度も蹴る殴るを繰り返したが何も変わらない。ベンチは凹みもせず、木屑の一つも落とさず、僕の身体が痛いだけだった。
 ベンチの状況は一向に変わらず、ただ僕が遠吠えしている、それだけだった。



 2
 翌日から環境は変化をした。が、それは僕と相川とシズカの三人でいる時だった。当然、相川はシズカと仲良くやっていて、僕とシズカは相変わらず文字でやり取りを繰り広げていた。そのうちスケッチブックを買ってきてやろうか、と考えたが、そこまでリスクを負う根性も、僕にはなかった。
 いつものように睡魔が襲う六時間目、歴史の授業の最中――僕は戦国武将のように睡魔に闘いを挑むつもりもなく、社会科教諭による小牧長久手戦の実況中継を聞き流しながら、また眠りについていた。
 HRをすっ飛ばし、僕は放課後、陽が暮れるまで寝ていた。いつもなら相川が無理矢理叩き起こすものだが、今回は静かなものだった。自発的に起きた僕は辺りを見渡すと、隣で目尻を緩和させたシズカがいた。僕をいつくしむように眺め、ほころんだ面持ちは嫌《いや》に満足気だった。シズカは、僕の髪を指先に絡ませて遊んでいる。呆けたシズカの手首を握り、顔を詰めた。
「相川は?」
「帰ったよ」
 急に腕を掴まれたシズカは、その表情を強張らせ、ぴたりと固まった。直後、シズカは力一杯に腕を引いた。手首には赤い手跡が残っている。普段にない嫌な沈黙、シズカが何かを言い出そうとして待っている沈黙とは違い、お互いに何も言い出せない、微妙な空気感。
 僕は打開しようとした矢先、以外にもシズカが口を開いた。
「じゃましちゃ……わ、悪いからって」
「相川が?」
 シズカは、深く頭を下げた。そうしてもぞもぞと、鞄からA4のスケッチブックと十二色の水性ペンを取り出す。艶やかな黒髪がスケッチブックにかかり、指で髪を掻きあげる。眼を凝らし自分の世界に没頭したように、十二色の水性ペンを綺麗に使い分けた。鮮やかな色彩が紙に載る、可愛らしいイラスト入りの会話文が出来上がった。
 ――へんなの、いつもなら気にしないで遊ぶのに、どうしてなんだろう?――
 僕は机の上に転がる十二色のペンを手に取り、文字の下に追加した。
 ――昨日、シズカより相川の方が話す時間が長いから、傍から見たら僕と相川が付き合っているみたいだ。シズカは友達にしか見えないといったから――
 シズカは青いペンを掴み、僕の書き込みの下に、急いで返事を書いた。
 ――急にどうしたの? 変だよ、国友君――
 ――このままだったら、駄目だと思ったから――
 僕が書き終わる前に、シズカは青ペンを転がした。真赤な水性ペンを握り締め、スケッチブックに殴り書いた。
 ――他に方法が無い――
 ただ、それだけだった。
「話そうと、努――」言いかけて僕は口を噤んだ。シズカは“話そうと、努力している”はずだ。と、信じたい。でも、いまここで――話そうと努力しているのか?――と問い正《ただ》してしまうと、全てが壊れてしまいそうだった。
 僕はペンを持った。しかし、不可解なサイケデリックに発色をしたスケッチブックには、書き込むところがなくなっていた。転がる水性ペンを、僕は強引に筆箱へ詰め込んだ。ビニールの筆箱から、真赤の水性ペンが突き抜けていた、カラフルなスケッチブックを掴み、思い切り黒板に投げつけた。
「国友、く……ん」
「シズカの感情が、僕が思っている通りなのか自信が持てないんだ」
 掌が暖かいものに包み込まれた。シズカの手のひらに包まれて、ぎゅうっと――握り締められる。
 一瞬たじろぎ、払いのけた。
「文字だけで解るもんか! 他に方法がないって、スケッチブックに頼ってるだけじゃないか」
「……ごめ」
 シズカの話を聞かず、僕は教室を出た。何かのきっかけで弾けた、一瞬の出来事だった。教室の戸を開けて廊下へ出る、シンと静まり返っていた。無機質でシンメトリィの廊下、足元は風が吹き抜けてひんやりと冷たい。閉め切った戸に、さらに蹴りを喰らわす――ゴッ。戸は傾き、擦り硝子は軋みガビっていた。
 約八ヶ月、蓄積された不満が一気に顔を出す。自分では喋ることが成長だ、として何処か押し付けているのは分かっていた。特定の人間と喋れないことが間違っていること、治さなければならないこと、そう圧《お》し付けている自分がいる。土壌に劣等感がある僕が、一番の問題なんじゃないだろうか……
「ぐちゃぐちゃだ。何が正解で何か間違いか、解らない」
 僕は漫画が好きで、自分でも漫画を描く。アニメだって見るし声優だって好きだ。そんなヲタクは社会適応するようなマトモと呼ばれる人間にならなくちゃいけないのか? ヲタクを卒業すが正解なのか、ヲタクを治すことが成長なのか――シズカもことも、それと同じじゃないのか。
「圧し付けがましいんだよ――ヴォケ」
 一枚の窓に拳を繰り出した。阿呆そうに囀っている自分が映る窓に罅《ひび》が入っていく、ボロボロと頬こけていった。歪んだ自分が映る窓硝子に、最後の一撃を加える。
「死ねよ」
「駄目えぇ」刹那、女の声が響いた。
 窓に映る壊疽した顔が、しょぼったく砕けていった。数秒後――乾いた音が届いた、割れた窓が外に落ちた。
「なんだよ」僕は呟く。
 駆け寄ったシズカは、硝子の破片がめり込む拳を掴んだ。座り込みポケットから取り出したハンカチで、流れ出している赤ぐろい血を拭う。
「イラスト、描くでしょう大事、な手じゃない」
「知るか」
 シズカは、また鞄の中からスケッチブックを取り出し始めた。その山吹色の表紙が眼に入っただけでも嫌気が差す。その取り出すシズカの姿をみると、結局――何も変わらない、何かを攻撃しても変わらない。窓越しに自分を殴ったところで自分すら変えられないと、痛感した。。
 ……くだらない。自分に嫌気が差す、何度目なのか思い出せない。
「シズカ……」
「国友君」
「スケッチブックに頼って、喋る努力をしてないんじゃないのか?」
 どうせ何も出来ないなら、何も変わらないなら、思っていること全てをぶつけた方がマシだ。
「お前――エッチする時も、その限られた枠の紙と、その十二色しか表せないペンで、気持ち良さを書いてくれんのかよ」
「喋れないの、開き直ってんじゃねえよ」
 罵声を浴びせた後、我に返った。直後自責に苛まれる。シズカの眼鏡はずり落ちて、鼻の下部に引っ掛かっている。シズカの瞳から大粒の涙が零れ落ち、涙で眼鏡が滑っていた。眉間に皺を寄せ、眼球を見開いたまま涙を流す。唇を奥で噛み――僕を見詰める。
「ごめんなさい、国友、君」
 僕の手に筆箱が手渡された。皺の寄ったスケッチブックも手渡され、シズカは無言の走り出した。カランカラン――と、無機質な空間に暖かみのある足音が駆け抜ける。その足音は攪拌し、反響して耳に付く。階段に吸い込まれていくシズカの残像が残っているようにみえた。
 使い古した山吹色のスケッチブックと、手垢で汚れたクリアーな筆箱を小脇に抱え、窓の外へ身体を乗り上げた。硝子が腹に刺さり、ちくちくと痛い。僕は木々に囲まれた並木道を上から眺める、校門へと駆けているシズカの姿だ。薄暗くなった辺りは視界を奪い、拳程度のシズカを霞める。前のめりになりながら、逃げるようにして、シズカは並木道を走り抜けていた。



 3.
 翌日の朝は散々だった。ことのほか何もなかったことが、最も散々だった。躊躇して教室に入ったが、普通に挨拶をされた、おはよう――おはよう。ただそれだけだった。相川も何事もなかったかのように、シズカと会話を繰り広げている。少しだけ何かあったというと……相川が「今日はシズカと用事あるから」と、シズカとは一緒には帰れないよと、伝言のような通告を承っただけだった。
 昼食、いつものようにシズカと一緒にご飯を食べる。シズカにアイコンタクトを強いられ、シズカの机に向かった。しかし、昨日のことには一切触れない。毎日欠かさず作ってくれている弁当も、あいかわらず美味しかった。正直……白ご飯の上に海苔でも何でもいいから、馬鹿とでも描いてあったら、まだ気が楽だった。
 ――最高に旨かった。気持ちがこもっていた。それが痛い、痛々しいとも、感じる。
 ごちそうさま、とお互いにいいあって、僕は席を立った。席に戻ると机の中に手紙が入っていた。殴り書いた文字で相川マミとある、中からルーズリーフを開くと――昼休み屋上で待ってるから来い――とあった。振り向いてシズカの方を凝視、シズカはぼんやりと僕を眺めていた。不思議そうにして目をパチパチと瞬いている、シズカの差し金ではないと確信した。僕は屋上へと向かった。
「何? 相川」
 逆光に照らされる相川がいる、影が入りその表情はみえない。痛々しく荒んだ風が気だるくふき、屋上から見渡す景色はアイボリィに染まって陽炎のように歪んでいる。一望すると、褐色の風景に溶け込んだ相川が深く沈んでいた。
「最低だね」
 相川の発した言葉は、コンクリートを這うように振動させて、低く――僕に届いた。
「何が?」
「その辺が――」
 どの辺りが? そくざま返そうと思ったが、やめた。シズカを傷つけた癖に、何が? とかいってる僕が最低なんだろう。そんなこと、いわれなくても解っている。昨日、すでにシズカに逃げられた時点で責めているよ。
「何のこと?」
 一応伺っては、みた。
「もういいよ」
「用事ないんなら帰るよ」
「――そう」
 呟いて、頭を沈める相川。影でよく分らなかったがその影は動き、唇から頬にかけて引き攣っている。
「じゃあ……」
 振り返り、僕は錆び付いた赤褐色のドアを引く。コツン……後頭部に何かが当たった。コンクリートの上を転がる掠れた音がした。拾おうとして手を伸ばした瞬間。
「彼氏じゃなかったら殴ってるよ」
 撥ね退けるようにして、相川は肩をぶつけ去っていった。馬鹿のように大音を立ててドアを閉めていった、その鈍い衝撃が鼓膜を打つ。かさかさと音をなして転がっていくのは、握り潰された紙屑だった。拾い上げ開いてみると、そこにはインターネットのアドレスが書かれていた。後、時刻が書かれてあった。
「ページを開いてみろ、ということかな?」
 再度くしゃくしゃにして、紙屑をポケットの中に放り込んだ。コンクリートには、赤黒くよどんだ錆が散らばっていた、さっきの衝撃だった。そのお陰で重々しいドアは、軋んでなかなか開かなかった。


 ☆


 家に帰ると、僕はPCの電源を入れた。部屋の蛍光灯は点けず、発光するモニターを頼りにOSの立ち上がりを待った。そうしてブラウザーを起動させ、ダイレクトにアドレスを打ち込む。ガリガリと鬱陶しいハードディスクの作動音を聞きながら、そのページが表示されるのを待った。暫しの沈黙――かったるく映し出されたのは、安物臭いチャットルームだった。僕はとりあえず、ROMすることにした。甘ったるい、火傷するほどに熱い缶コーヒーを口にする。唇がヒリヒリと腫れあがる中、茫然とモニターを眺めた。
 ――クーさんがチャットルームに入室しました。
 誰かがチャットルームに入った。クーというハンドルネームは、シズカから聞いたことがあった。暫らくして次の入室者が現われる。
 ――マミさんがチャットルームに入室しました。
 マミ……相川か、一体どうしていいのか分らなかった。どういうことだろう……僕も入室して、チャットで会話をしようということだろうか? しかし、クーという人間がいる。相川の目的がみえないうちは、下手に動けないのが現状だ。いい加減――この二、三日で学習した。
 そのまま、躊躇したまま、書き込みがつづいていった。
 ――マミさんの発言:クーさんこんばんわです。最近どうですか?
 ――クーさんの発言:旦那と仲良くやってるよ。
 ――マミさんの発言:幸せそうで良かったです。今日は急に呼び出しちゃってスミマセン……(汗
 建て前がつづいている、なかなか本題には入らない。既にネーム欄にはハンドルネームを打ち込んでいる、いつでも入室出来る状態だった。缶コーヒーは、やんわりと湯気を立ち上げていた。動向を覗《うかが》い、缶コーヒーを口に運ぶ。
 ――クーさんの発言:いや、いいよ。今日はどうしたの?
 ――マミさんの発言:親友のシズカいるじゃないですか、昨日彼氏と喧嘩しちゃって今日も泣いているんです。
 ――クーさんの発言:そりゃ辛いわな、何があったの?
 ――マミさんの発言:今横にシズカいますから、ちょっと代わりますね。
 ――クーさんの発言:了解。
 そうか、やっと相川の真意がはっきりした。シズカの気持ちを分かってやれ、ということか。僕はネーム欄にあるハンドルネームを削除した。
 シズカが泣いている、あの強いシズカが泣いているとは思わなかった。学校では何事もなかったかのように振舞ってはいるが、内心ではグチャグチャに……壊れているように思えた。
 糞熱い、半分以上残っている缶コーヒーを一気に飲み干す。食道と胃が熱さで悲鳴をあげた、その熱を噛み締めて、食い入るようにチャットの様子に没頭する。
 ――マミさんの発言:お忙しい所スミマセン。以前教えて貰ったスケッチブックなんですが、ずっと使用していたんです。でも昨日、国友君にスケッチブックに頼って、話す努力をしていないんじゃないかって。
 ――マミさんの発言:そう言われました。
 ――クーさんの発言:そう。私は言われたこと無いけど、色々考えてみようか……
 ――マミさんの発言:ハイ、お願いします。
 僕はここで、ブラウザーを終了させた。これ以上、シズカの本心と想いを盗むのはやめた。以前クーという人に教えられて、多分スケッチブックを用意したんだ、今回も同様に何か手を打ってくる、その気持ちだけで十分だ。シズカは何とかして意思の疎通を図ろうとしている、それが喋ることはなく、自分の出来ることで形にしようとしている、スケッチブックだったり違う何かだったりするだけだ。
 僕は机の上に転がっている、0,5mm製図用シャープペンシルを握った。そして引き出しから、丸ペンとGペンの先を取り出す。引き出しの奥には、待っているようにCOPICのマーカーセットが準備されている。
 腐って何も出来ないでいるよりも、ただ暴れているよりも、シズカのように何かしら出来ることをしよう。そう思い、僕はシャーペンを走らせた。丁寧に、しっかりとだ。



 4.
 あれから一ヶ月、暮れも押し迫ってきた十二月の後半――クリスマスを迎える。相川に教えてもらってチャットルームに入った、あの時から描き出したイラストも十枚ほど出来上がっていた。例のスケッチブックに描いたイラストを封筒にしまい、鞄に隠していた。僕はダッフルコートに身を包み、シズカ宅の玄関にいた。
 今にも雪が降りそうなほどに寒い、息を吐き出すと一瞬にして結晶化している、真っ白に固形化してキラキラとしている。そして星は雲と共存し、その輝きを放つ――靄が掛かっているような雲の隙間から、星が瞬いている。エイプリルフールやハロウィンと、年中行事を大切にするシズカの家だけあって、それはちゃんと用意されていた。
 庭にそびえ立つ大木、元気に葉を茂らせて、電飾が施されている。流石に大木の天辺《てっぺん》にゴールドの星はなかったが、ブルーやレッドにイエローとホワイト、電球を点滅させて立派なクリスマスツリィだった。
 僕はインターフォンを押した、良くある四角い型のインターフォンだ、待ちわびていたようにシズカの照れた声が聞こえてくる。一度、電子信号に変換された声は、普段とは違い高音が抜けていた。僕の心臓は、どっくどっくと圧力を掛け胸を貫いた。ただの真四角な黒いインターフォンですら、見違えたように新鮮だった。
「はい、どちら様でしょう」
「国友です」
 シズカは玄関にいる客人が僕だと分り、急に声色が、かぼそくなった。インターフォンにコンバートされた声質は、さらに倍音が減少したかのように弱々しくなった。
「シズカ、入っていいの?」返事がすぐに来ないと思い、僕から切り出して誘導する。
「今、開けます」
 木製の風格あるドア越しから、ガチャリと鍵が開いたのが解った。少し待ってみても、一向に開く気配がなかった。むしろドタドタドタと、どんくさい足音が響いていた。いまでは、それが可愛らしくも思えている。開かないところをみると、シズカは僕が開けるのを待ってるはず、ノブを握り勢いよくドアを開けた。
「お邪魔します」
「いらっしゃい、国友くん――」
 ……トナカイさんがいた。シズカの、しゅっとした鼻にまあるい真っ赤なお鼻が付いていて、頭から二本の角が飛び出している、小さい丸みのある角が二本可愛らしく飛び出していた。
「シズカ」
 僕は靴も脱がずに飛び出していた。
「国友君」
 ハタと驚いた表情、シズカの可愛らしさに、僕はぎゅぅっと抱き締めていた。華奢な身体のシズカを抱き締めると、折ってしまいそうになる。
 しっとりとしたスウェードの感触――クリスマスカラーの、黄色味が掛かる赤のサンタ衣装、ふちぶちには毛羽立つクリスタルに輝いた白いファー、濃紺の膝上丈のデニムのミニ、ぼんぼんがアクセントになった紺のソックス。気が動転するのも頷ける。
「国友君……どうしたの? もう酔ってる?」
「シズカをみたら出来上がった」
 イラストを描きつづけ、相川とシズカと距離感ができて、何事もなかったかのように振舞いつづけた一ヶ月。あのチャットから翌日、二人とも僕に深く入り込まない上辺《うわべ》だけの付き合いがつづいていたんだ、僕の反動が大きくても仕方がない。シズカ、相川の出方を窺いながら待ちつづていた、このクリスマスの招待にどれだけ期待が膨らんだことか。
「相川は?」
「バッ――バイトが終ったら、直行すす、するって」
 僕の胸の中に埋まったシズカが、もじもじと答えた。抵抗しないシズカ、でも逆もない、困ったようにして僕の胸に抱かれている。
「国友く、ん。部屋行こ? 玄関だから、ね」


 ☆


 コトコトコト――静かに、シズカの部屋のドアが開いた。室内は真っ暗で、各家電製品の電子パネル、LEDが色とりどりに光を放っていた。シズカは、僕が来るのをずっと玄関で待っていたのだろうか――室内はひんやりとしていた、足元が肌寒い。
 小走りにシズカは部屋に入り、ホットカーペットのスイッチを入れた。真っ暗闇の中で、シズカはゆっくりとカーペットに横座りをした。徐々に視界が暗闇に慣れて、シズカのフォルムが浮き上がってくる。僕を待っているようだった。
「国友君、ここ……」
「あ、ああ――」
 僕はドアを、しっかりと、締めた。シズカに導かれるように、僕はシズカと向かい合って座った。無表情のシズカは僕を見つめながら、暗闇に同化した黒髪をなびかせた。窓から入っている月光に照らされ、しっとりと潤う唇が艶やかに映し出される。僕は食い入るようにシズカを凝視していた。光が滲むように、てらてらと唇が煌いている。僕の眼が霞んだ、そして脳も霞んでいく……
「シズカァ」
 無意識に四つん這いになった僕は、掌と膝をずるずると擦りながらシズカに向かって進んでいく。近づくにつれ、シズカの輪郭がはっきりとしていく。しゅっとした顔立ち、眼鏡は月を映し出す、髪からはシズカ特有のトリィトメントの香りを立ち込ませ、へたくそなほほえみを表している。
 僕は無我夢中でにじり寄る――胸の膨らみ、艶やかに流れる脚、甘い香り、へただけど愛嬌のある笑顔。そのてらついた唇を奪いたい。
 僕はシズカの肩を押し、身体を倒した。黒髪は光沢を放ちながら、カーペットに広がる。シズカの両手を握り、指を絡ませて、毛羽立った絨毯に押し付けた。意識は薄くなってゆき首筋に頭を埋めた、シズカの身体は暖かい、僕の体はどうだろうか?
 唇を首筋に這わせ、舌を転がしながらシズカの唇に持っていく。横から掠めるように唇を奪った、てらてらと輝いている唇は――ぶるりと振るえた。
「この前はごめんな」
「スケッチブックのこ……と?」
「うん、そのこと」
「それより――」
 ばたばたとシズカは胸の中で暴れ、僕から出ようとする。身体を捩じらせて胸の中から飛び出し、シズカはシーツが垂れ下がるベッドの下部に腕を突っ込んだ。覗き込むような体勢のシズカは、手探りで何かを探している。突き出されたお尻は、海に浮かぶ満月のようで見入ってしまった。
「どうしたの? シズカ」
 片手を突っ込んだまま、僕を窺いへたくそに笑った。「これを渡そうとしてたのに、国友君が襲うから」そういってまた――にこりと笑い、ある箱を取り出した。
「はい」
 暗くて何か解らない。少し大きめの箱、綺麗にラッピングされていることは分った。やわらかい布に箱が包み込まれ、上部にリボンが括りつけられている。シズカはゆっくりとした動作でリボンをほどき、布が四方へ開かれた。
「国友君――へ」
 突然の出来事で僕は何もいえないまま、シズカはその箱の中から何かを取り出す。すぅっと、シズカは物音も立てずに近づいてきた。這いながら、ゆっくりと真向いに来たところで正座をした。渡しものがあると聞いて、僕は自然と正座をしていた。
 絨毯の温度と室内の温度差がある中、暖かい息が肌をくすぐる。粒子状になった呼吸があたる、静まり返った室内は、呼吸と心臓の打つ流れが誇張された。僕はどうしたらいいのか分からないまま、シズカの動向に息を呑んだ。
「クリ、クリスマスプレゼント、だ、よ」
「うん」
 暗闇の中から、眼前に両手が大きく浮かび上がる。何かを手に掴んでいるシズカは、僕の両耳に何かを当てた。耳の感触から、それはスポンジのようなもの、耳にあるものから、口元に向かって何かが飛び出している、それが分った。
「国友君、聞こえる?」
 耳に直接シズカが語りかけているように感じた、シズカの声質に微量のノイズが乗っていた。
「シズカ……これ」
 急いでシズカは僕から離れる、部屋の一番奥の壁にもたれる。恥かしいんだろうか……膝を折り、包まるようにして口元に手を当てる。じっと僕を凝視している。
「国友君、よく聞こえるよね?」
「うん、聞こえるよ。シズカの声だ」
「ん……」シズカはコクリと頷いた。
 指で抓んでいる口元のアームはマイク、両耳に当たっているスポンジに包まるものはヘッドフォン。トランシーバのようなものが僕とシズカを繋いでいた。シズカは声をデジタル信号に変え電波を発信、受信して増幅された声を僕に伝える。このデジタル信号に変換することで、スケッチブックのようにフィルターを掛けている。それがシズカにとって重要であり、フィルターが掛かっているためパニックに陥らないのだろう。
 で、ないと、スケッチブックに書き込むことによるパニック回避の説明がつかない。多分だけれど、シズカの掛けている眼鏡を外すと、パニックで僕を見れないのではないだろうか。ハッキリしたことは分らないが、それならば僕は納得できる。
「シズカ、僕の声、聞こえる?」
「はい、聞こえます」
 僕とシズカは、見つめ合った。真っ暗闇の中――見つめ合う、月光がシズカを照らし、淡い光がシズカを滲ませているようにみせた。僕は月光とシズカに魅せられ、動悸が高まる。静かな室内、でも、シズカの微かな吐息も、ダイレクトに僕の鼓膜を振動させる。シズカも同じだ、僕の荒い息がシズカの鼓膜を打っている。唾を飲み込む音、かさかさに乾いた唇の掠れる音、隠せずお互いに伝えていた。
「シズカ」
「国友君」
「シズカ」
「はい……」
「好きです」
「国友君、私も好きです……愛しています」
「シズカ――」
「はい」
「シズカ」
「はい……」
 毛羽立った絨毯に手と膝を擦らせて、シズカに向かって進む。ホットカーペットの熱が、絨毯を介して掌に伝わってくる、じんとしていた。着実にシズカとの距離を縮めている。
「キスするの?」シズカの声。
「うん」
「キスして」
 トランシーバは、シズカをすぐ隣に居て耳元で囁いているような錯覚を与えてくれる。ずるずると絨毯を擦る音がする、近づいていくとシズカの姿がクリアに現われてくる。シズカは細い指でマイクを抓み、力強い眼差しを向け、僕を待っていた。
「キス、するよ」
「来て」
「それだけじゃ済まないかも……」
「あ、うん、国友くぅん――いいよ、準備は出来てるから」
 はっきりと身体の輪郭が分かるまで近づいた、もう接している、シズカの腰に手を回し、鼻同士がふれあう位置まできていた。
「国友君……お話するって、楽しいね」
「うん、気持ちがちゃんと伝わってる……と思う」
「ちゃんと伝わっているよ」
「シズカ、ちゃんと感情が伝わるよ。今、怖い?」
「少しだけ……だけど安心感の方が強い。国友君だから」
 僕に眼を合わす、睨みつけられたような感覚に囚われるほど実直に、シズカは眼差しをぶつけた。シズカと僕――マイクのワイヤーを上へ持っていく。シズカは眼を瞑り、唇を突き出している。僕は、ちぢこまるようにしているシズカの腕を取った。遊ぶようにして指を絡ませ、壁に押し付けた。壁はつめたい、シズカの手のひらは、熱い。身体をかさね、シズカの熱い体温を感じながら、僕はそっと唇にふれた。
 お互いに乾燥した唇、なんども唇をかさねていくと徐々に湿ってくる、その内側を熱くさせる。
「国友君……」
「どうしたの?」
「――おっぱい」
「ん?」
「おっぱい、あたってる、の」
「おっぱい」
「うん……おっぱい」
 掌の感触がしっとりと、熱かった。むりゅりとして、指が吸い込まれている。無意識にさわっていた。僕は体を起こした。
「国友君って、大胆だね」
「い、いやあ」
 シズカは口元にマイクを当て、ほほえみを浮かべる。サンタ衣装の前ははだけ、ブラウスのボタンは外され、無理矢理手を突っ込んだ痕が残っていた。壁にもたれかかり、きゅっと身体を縮める姿、マイクのアームをイジっているシズカの姿があった。
 そこにいるのに、あたかも耳元で囁かれているように感じる、僕の肩に身体を乗り上げて囁かれているイメージは、シズカの身体のぬくもりすら伝えているような感覚に囚われている。
「これ、やばいよ」
「これ?」
「このトランシーバ、やばい、僕もヤバイよ」
「ホント――良かった、喜んでくれて」
 はだけた衣装をなおさず、シズカは恥かしさを紛れさせるように体操座りをする。肉付きいい太ももが露になる、細い脚だけど筋肉質ではないやわらかそうな脚、ちらりと真っ白なパンツが見え隠れしている。僕をジッと見据えるシズカは、吐息を僕に伝える。ヘッドフォン越しに伝わる吐息は、甘い吐息に感じてしまい、息が耳にあたっているような気がしてくる。
「はあはあはあ――」息があがる、興奮がやまない。
「国友君、聞こえるよ……我慢出来ないの?」
「シズカァ」
「……ん、いいよ、国友君。ベッドに行こ」
「我慢できない――」
「国友君、ちょっと待って――」
 ガタンッ、激しい音がした。――ドアの向こう側で何かの衝撃があったような気がする。でも、そんな事に気が回る余裕はなかった。ヤヴァイ、シズカやばいよ……
 シズカは僕の身体に抱きつき、淫靡な吐息を吐いた。全身に力を入れて僕を抱きしめる。ヘッドフォン越しだけど、実際に耳元でフィルターを掛けて囁く。
「落ち着いて、深呼吸しようよ、ね」
「う……うん」
 窓の下、月に覗かれて、絨毯に横たわるようにして抱きしめ合った。どくんどくんと鼓動が胸を打ち続ける。シズカの脚が僕の脚に絡まる、シズカの腕が僕の背中を優しく撫でる。僕の胸に埋まりながら、シズカの荒い呼吸が耳を打ちづつけた。
「シズカ、出る、我慢……無理」
「うぅ、うん。ズボン汚れちゃうから、国友君」
「シズカ、逝きそ、いくいくいく」
「あっ、ああ、待って国友君……すぐ脱がすから――」
「シズカ、シズカァ、キスしよ、キス」
「キス、でも国友君、早くズボン脱がなくちゃ」
 かちゃかちゃと金具を外して、ジーンズとトランクスを一緒に下ろした。ずり下ろした時にシズカの息が爆発寸前のモノのあたり、我慢の限界に達した。カチカチのモノの、至近距離にシズカの顔があることさえ発射の後押しにすらなっている。
 もう、駄目。シズカとキスがしたい。好きで好きで堪らないシズカとキスをして、愛情を感じたい。その中で発射してしまったら、もの凄く幸せなんだろうか、とにかくシズカとキスをしたかった。
「国友君、いま行くから」
「キスキス」
「はいはい、国友君」
 ――――逝った。
 僕は、もう一度シズカの唇に僕の唇を押し付けた。顔を近づけるとアーム同士が当たり、上部にマイクが跳ね上がった。シズカは僕の頭を撫でる。
「出ちゃったね、国友くぅん……ショーツの周りにいっぱい付いてる」
 シズカの白いパンツから太ももにかけて、いっぱい詰まった白い液体が飛び散った。僕にキスをしようと身体を滑らせて、発射寸前の僕のモノをシズカは刺激した。スカートのデニム地のキツイ刺激から、やわらかな太ももと暖かいコットンの感触に包まれた。刺激の段差とシズカの唇の感触と熱さ、ダイレクトに情報が流れるシズカの甘い吐息、気持ちが交差して僕の想いを発射した。
「ねえ、まだ出てる。熱いよ国友君」
「うん――」
 優しく抱きしめられ頭を撫でられて、僕は安堵のような安心のような、ぽわぽわした不思議な感覚に包まれている、シズカに優しく包まれていた。びゅっくびゅっくと射精が止まらない、僕の収まらない波打つモノは、染み込んでいる汚れたパンツに押し付けて、想いが白い液体に形を代え、何度もシズカの大事なところにぶつけていた。
「シズカ、も一回いうよ。冷たくしてゴメン、ほんっと大好きです」
 歯がカチカチと当たり、押し潰れるほどシズカは唇を押し付けた。僕の上に覆い被さっているシズカは、全身で僕の気持ちに返事をする、信じられない力強さで身体は締めつけられた。
「痛い?」シズカがいう――
「痛い」僕もいう――
「うん……」シズカは頷いた。
「ありがと」僕も出来る限り抱き締めた。「シズカ痛い?」僕がいう――
「痛い」シズカもいう――
「うん……」僕は頷いた。
「国友君、ほんっとに大好き」
 シズカの言葉から隠れるほのかな感情を読み取って、僕はいっそう愛おしく思った。


 ☆


「国友君、ショーツどうしようか、穿きかえる? このままで居よっか?」
「ええええ、ど、どいうこと?」
 光は月光のみ――窓の下にいる僕から、離れた場所にいるシズカは、箪笥を前にしてトランシーバで突然聞いた。発射してしまった後、抱きしめあってお互いの気持ちを確認した僕ら。シズカは月光から隠れるように箪笥の前に立ち、引き出しを開けた。
「うん、だって途中だったから、国友君最後までしたいかなって思って」
「ああ、あの、えっと、どうしよう」
 駆け巡るさまざまな思考、急にそんなこといわれても、どうしていいのか分からない。――このまま何もしないのにパンツは汚れたまま……とかアブノーマルなことまでイメージが膨らんでくる。シズカの高揚した荒い息も、ノイズの乗って直接耳に入ってくる。
 これはヤヴァイ、意識とかシズカの気持ちとか僕の気持ちとか、関係なく誘惑が襲ってくる。
「したかったら……うん、いいよ」
 ……抗えない。シズカのマイクは引き出しの擦る音を拾い、引き出しは閉じられる。手には何も持っていなかった。
「だって、我慢出来ないでしょ」
「うううう、うう、うん」
「だから……いいよって――ね? 国友君」
 何故か僕は追い込まれていた。確かに追い込まれるとは語弊がある、選択権があるのだから。でも、何故か僕に選択権がないような気がしてきた。僕のことを想ってシズカがいってくれているのに、誘導されているような、そんな気がする。思考は機能を停止していうことをきかない、下半身はなおさらだ。
 考えなんて吹き飛んでしまいそうになっているところに、シズカがゆっくりと近づいてきていた。窓から入り込む月光は、シズカの身体を斜めに照らす。サンタの衣装を脱いでいたシズカは、前が開いたままの白いブラウスと短いデニムスカートの姿だった。そのデニムスカートは裾が軽く捲くれていて、染み込んだパンツと下半身に感触が残るやわらかい太ももが見え隠れしていた。
「無理です……する。シズカ、する」
「はい、国友君」
 ばたばたと格好悪くしシズカに近づく、手を足をバタバタさせて、シズカの脚に抱きついた。くすっと笑うシズカの声が、またダイレクトに耳を打つ。身体全身に電気が走り、気が付けば太ももに頬を寄せ、すがりつくように頬ずりをしていた。目の前にシズカの、僕に汚されたパンツがある。ところどころ黄ばんだ斑点が出来上がる、塗れた純白のパンツ。あの暖かいコットンの奥に、熱い大事な部分がある。
 堪らなくなってシズカのあそこに吸い付こうとした――瞬間。
「うわあ!」
 もの凄い爆音がした。
 どこからか分らないけど、人の声と爆発したような音が……
「国友君、何?」
「え?」
 沈黙。
 えっと、誰か居る? あまりの出来事で、僕とシズカは固まった。人がいるってことは、誰だ? どうして入ってこれたんだ? シズカの太ももに腕を回したまま考えていた、僕はマイクに向かって話しかけた。
「玄関の鍵掛けた?」
「うううん。国友君がきた時、緊張して覚えてない、多分掛けてないと思う」
「泥棒?」
「かなぁ?」
 急いで立ち上がった。スカートの中から顔を出すと、シズカが真剣な眼差しで僕を直視する、不安を押し殺していた。「僕が行くから、シズカは着替えといて」足早にドアを開けた。
 廊下には誰も居ない、ひんやりを肌寒い風が流れているだけだった。とりあえず鍵が掛かっているかどうか確かめるために玄関に向かう。一歩脚を出すと、小指に何かが当たった。蹴った勢いで、円を描くように廊下を転がるものは――クラッカーだった。クリスマス用の、円錐形クラッカー。
 何か引っ掛かるものを感じたけど、急いで玄関に向かう。玄関に辿り着くと、ドアを一瞥した。鍵は――掛かっていなかった。
 一気に緊張が高まる。動悸が止まらず、強く息を吐いていた。
「鍵、掛かってなかったんだ」
 シズカの声、僕の吐いた息が、シズカに鍵の結果を伝えていた。ヘッドフォンから不安な声色が聞こえる「ショーツ穿きかえたからそっちにいく」と、シズカの意思が伝わってきた。
 玄関で右往左往していると、ダイニングキッチンから物音がした。キィの高い声と入り雑じっている。キッチンに誰かいる、僕はゆっくり足を忍ばせてキッチンへ向かった。
 廊下の電気は点いている、キッチンの入り口から人影が廊下に映し出されていた。居る、誰かがいる、入り口の手前の壁に背を付け、中を覗き込む。鼻を突く焦げた匂い、天井を這うように黒く濁った煙が逃げ出すように外へ流れ出していた。僕はジリジリと足を滑らせて入り口に身体を傾ける、ゆっくりと中を覗き込む。がちゃがちゃと器具の暴れるような音がして、蛇口から流れる水道水の音がした。中は少し煙《けむ》っていて、はっきりと中の様子が分らない。立ち込める煙が逃げ出してゆき、うっすらとフォルムが現われてきた。徐々に現われる姿、煙は天井をつたい流れていった。
「シズカ、聞こえる?」
 犯人が分った。僕は、すぐにシズカに連絡を入れた。
「聞こえるよ、大丈夫?」
「誰か分ったよ……」
「うん」
 いまだ煙が立ちのぼる中キッチンに入った。フライパンからもくもくと煙があがる、うちの制服にエプロンをつけた女の子があたふためいていた。
「なにやってんの? 相川」
「わわっ」
 手には調理用の手袋をつけて、フライパンの上に載っている蓋を取ろうとしたところで、相川は固まった。瞳を開いて機能を停止したように微動だにしない相川は、蓋をもったまま口をパクパクとさせていた。
「いきなりフライパンが爆発した、びっくりしたぁ……」
「そう――」
「ホント、死ぬかと……おも」
 ――「シズカ聞こえてる? 相川だった」相川を遮断するようにシズカに伝える。「いまからそっちに行く」と、シズカのマイクはドアを開ける音と共に声を拾った。
「何作ったの」
「ポップコーン」
 足元に、中身が空っぽになった外国産のポップコーンの袋が、落ちてあった……
「もしかして、これ全部入れた?」
「え、入れんじゃ……ないの?」
 ……これ、何人分あるんだよ。
 あは、あはは、とカラ笑いしながら、相川は心なし寂しそうに椅子に腰掛けた。「まさか爆発するとは、思わなかった」相川は――ふう、とさっきの白煙のような溜め息を吐いた。とりあえず僕はシズカを待った。



 5.
 玄関には僕と相川とシズカがいた。時刻は十一時、そろそろシズカの両親がディナーから帰ってくる時間になっていたので、僕らは帰る身支度をして玄関に来ていた。
 ポップコーン爆破事件の片付けをシズカがやっている間に、僕と相川はリビングでケーキを切ったり、シズカが帰ってきた時に使うクラッカーの用意と、楽しいひとときを過ごしていた。真っ暗にしたリビングで三人一緒にロウソクの火を消して、そして雑談。楽しい時間はあっというまに過ぎ去った。僕は、自分がイラついて壊しまくった関係が、元に戻ったような気がして……安心の方が大きかった。
「んじゃいくね、シズカ」相川はウインク。
「後で電話する」と僕は手を振った。
 玄関を開けると、外から凍てついた風が入り込み、僕らの身体を冷たく撫でた。
 途中まで帰り道が一緒だから、僕は相川と二人で歩いていた。風が強い、ダッフルコートを深く着込む。真っ白な息を吐くと、体はぶるぶると震えた。僕は自動販売機に走って暖かい珈琲を買う、相川にはとりあえず無難なロイヤルミルクティを買うことにした。
「ほい」
「ん、サンキュ」
 相川は投げた紅茶を受け取ると、頬に缶を当て肩を震わせていた。薄いトレンチコートを羽織る相川は身体をちぢこめるようにして、唇を震わせてごくごくと紅茶を飲み干していく。
 雪は降らない、ただ冷たい風だけが僕らをうっていた。街路樹は、示し合わしたように同調してカサカサと風に吹かれ、街灯も同調するように不安定に点滅していた。
 無言のまま五分ほど歩いたところで、相川はおもむろに僕を呼んだ。国友、何?
 手のひらに息を吐いていた横顔は、ゆっくりと正面になった。掴めない相川の表情、立ち止まっている僕らにヘッドライトの光が掠めていく。一台、二台、十台とヘッドライトのまあるい光が僕らを掠めていった。
「だから、何? 相川」
 一瞬にして、頬に衝撃が走った。何が起きたか把握出来ず、相川の赤く腫れた顔が歪む。ジンジンと痛む頬は、僕が殴られたことを知らせていた。
「痛ぇ」
「そりゃそうよ、おもいっきり殴ったんだもん」
「何で?」
「……シズカのこと大事にしろ、ばか」
「はいよ……」
 何事もなかったかのように、相川は歩き出した。僕は、何故か、頬の痛さはあまり感じなかった。頬を擦《さす》りながら下を向いて歩く。くすぐったさともいえず、やわらかさともいえず、微妙な頬の痛さを感じている。口元が変に上がり、ニヤケてきていた。
「なあ、相川……シズカの部屋の前に落ちてたクラッカー」
「あ、うん――わたし」
 一度、ドアの向こう側で激しい音がしたのは相川だった。こっそりとキッチンにいってポップコーンを調理したみたいだ。もしかして、シズカとキスとかしてたのを見られていた……
「もしかして、ポップコーン爆発させた?」
「まさかぁ、たまたまよタマタマ。タイミングはバッチリだった?」
 相川は頬を赤らめ、カラカラと大口を開けて笑った。
「うっせぇよ」
 確かにタイミングはバッチリだった。狙ってるのか、と思うほどにトンピタだった。僕のを殴ったことを思うと、相川は全てをしっているのだろうか、途中までエッチしたこと、仲直りしたこと、と。
 どちらにしても僕はシズカを大事にしていく、だから関係ない。途中でもなんでもあれだけシズカを傷つけた、僕がシズカの気持ちに応えていきたい――それだけだ。
 とぼとぼと歩いていると、交差点に着いた。ここで相川とお別れだ。ポンッと紅茶の缶が飛んできた、相川は帰っていく。
「じゃ、またね国友」
 相川は、波に乗るように手をひらひらとさせて去っていく、僕は後ろ姿を眺めながら声を掛けた。
「そんなこといって、どうせ三人で会うんだろ」
「まあね、そんなトコ」
 そういって、振り向きもしないで、暗闇に消えていった。一言でも謝っておけばよかった。



 6.
 ノイズが乗る、携帯電話のノイズはトランシーバと違って、ほとんどノイズが乗らない。トランシーバはアナログな感じがして、すぐ傍にシズカがいるように思えて、とても嬉しかった。自宅に帰ってきてすぐに、僕はシズカに電話を掛けていた。
「シズカ、ただいま」
「家に着いたんだね、お帰りなさい」
「今日はありがとう、シズカに逢えてよかった」
「私も……逢えて良かったよ。それとね、プレゼントありがとう。スケッチブック、私でいっぱい」
「うん、最初にスケッチブックがあったからシズカと付き合えたんだから、その、ありがとうの気持ちかな?」
「国友君、ありがとう」
「ええっと、これからはトランシーバだね。僕の隣にシズカの家があったら、一晩中話せるのにな」
「うん……そうだね、でも――将来は家じゃなくて国友君の隣にいるから、待ってて」
 僕は言葉が出てこなかった。感極まるっていうか、なんていったらいいのか分からず、黙ってしまった。でも、何かいわないとシズカが逆の意味に取ったら嫌だから、僕は何とか口を開いた。恰好いいことも、素敵なこともいえなかった。――悔しさで唇を噛んでいた。
 ――居ろよ、ぜったい。
 ――はい……国友君。


  1. 2006/11/12(日) 20:00:09|
  2. 中編作品|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:2

コメント

ものすごい遅レスですが、とても良かったです。
私の中の激しい文体のpoolさんからちょっと外れていてびっくりしましたがw
  1. 2006/12/01(金) 11:28:38 |
  2. URL |
  3. ませ #-
  4. [ 編集]

ありがとございます。

二次で、国友のキャラが違うといわれましたが、頑張ってかきました。
どうしてくーやんのモクーの二次をしたかというと、スケッチブックで国友が凹む話を書きたかったからなんですが、ちょっと調子にのってキャラが崩れてしまいました。自分的には結構満足しているのですが、この辺りが二次の難しいところです。
くーやんのモクーシリーズって、結構キャラクターが生き生きとして友達思いで青春って感じがして好きなんですよ。
その中で微妙な関係を書きたくなった、そんな感じです。特に相川がシンドイ位置に居ますので、フラストレーションとかをぶつけるところが国友しか居ないけれど、それは間違いではないけれど、正解じゃないって分かっている子だと思ったので、その微妙な苛立ち井ってのを書きたかったですね。相川って自分を責める系だと思ったから。
下降気味の転が続く構成の中で、三人の熱が感じられる作品を書きました。伝わってたらいいんですけれど……
ホント、二次は懲りました。
ではでは、ませさん。冬コミがんばってくださいねw
  1. 2006/12/01(金) 19:34:04 |
  2. URL |
  3. pool #-
  4. [ 編集]

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