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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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初夏の生ヌルい微風 一話

 扇風機が無造作に首を振っていた。窓が全開にされている。カーテンがやわらかく波打っていた。摂氏二十六度、湿った微風を扇風機が運びこむ。
 攪拌された微風が漂い、六畳の室内は蒸れてた。
 ベッドが軋んだ。もぞもぞと布団が移動する。寝苦しさを通り越した木下嵩児《コノシタコージ》は、無意識に布団を蹴落とした。
 目が覚める。おもむろに上半身を起こし、部屋を流し見た。HDDレコーダーの、オレンジのデシタル表示が目に入った。二十二時三十分。
 ベッドから降りた。汗でびったりとティシャツが背中に張りついている。半袖ティシャツとトランクス姿だった。軽く汗ばんだ髪を手櫛で払う。箪笥からよれたティシャツを取り出して着替えた。汗で濡れたティシャツを放り投げる。箪笥の横に立て掛けてあったアコースティックギターを手に取った。
 コードを押さえ、弦を撫でた。ナイロン弦特有の、緩い濁った音色が鳴った。
 身体をベッドへ投げ出して、寝転がった。そのまま胸下に抱えたギターを弾く。湿気を含んだ箱から振動を感じる。エレクトリックギターにはない、あたたかなアナログの音色がある。引っ掻くように弦を弾く。匂いたつハーモニィを、胎に深く沁みこませた。
 口笛を吹いた。ぬけるように高音が響いた。ねばっこく絡みつくアコースティックギターの緩い低音が、口笛と共鳴する。弦を弾く速度が増す。口笛が力強く吹き出され、必然に歌声へと替わった。
 微風が振動した。箱から繰り出される音、直接ナイロン弦から弾かれる音、潰れた喉声。
 廃頽的なロックンロールが吐き出された。
 ――愛という憎悪。ジョニーウォーカー、ハイライト、流行らない大麻。溺れてやろうぜ、愛憎というカフェイン。
 踵がリズムを刻む。身体が跳ねる。砕け散っていく感覚。ちりちりと痺れる神経。加速度的にのめり込んでいく。
 間奏の、螺旋ソロ。しっかりと指先に抓まれたピックが暴れ倒す。
 そこへ、ノイズが雑じった。無機質な電子音。ベッド脇のコードレスフォンから、内線の呼び出しだった。単調な内線のメロディで、熱がすぅっと冷めた。コードレスフォンの、褐色の液晶には内線番号4番と表示されていた。
 コージは、この時間の演奏で親が苦情を言い出したのか、と気にしたが違った。親が普段使用する内線は一番もしくは二番だった。そしてコージの妹が三番である。
 家族では無い、とコージは少し安心して受話器を耳に当てた。
「なに?」
「起きた? ギターの音がしたからね。じゃっ、そういうことで」
「なんじゃそら」
 コージは受話器を放り出し、ソロを弾く。内線で気が紛れ、淡々と一弦から五弦をてきとうにこじいた。喉を震わせて、不安定な声色を搾り出す。高域が切なく鳴いていた。
 窓の外から物音がした。コージは下げていた頭を上げる。窓をみた。窓の外から、ひょっこりと頭が飛び出した。コージにとって、見慣れた頭、見慣れた光景、慣れた日常だった。
 二階の窓から顔を出したのは、幼馴染の素直空《スナオクゥ》だった。梯子をよじ登ってきたクゥは、窓枠に上半身をのせて手をあげた。カランカラン、とロープで結ばれた木製の梯子がはしゃいでいる。
「よっ」
「よっじゃないよ。はいはい、もー危ないからね、さっさと中に入って来い」
 クゥはごろごろと転がり込んだ。
 サイドにテープラインが入ったジャージ姿。クゥは頭を掻きながら、コージの正面に立った。
「コージの、その上から目線がむかつく。せっかくお姉さんが遊びにきたのに」
「いやいやクゥ、同級生でしょ?」
「まあね。だけどコージは、学年で一番背が小さくて、しかも童顔だからね」
 クゥは真顔でいいはなった。ベッドに座るコージの隣に並んで、ぶっきらぼうに腰を下ろした。
 コージは苦笑して、クゥの前髪をそっと掻きわけた。
「童顔だから仕方ないって? どっちかっていうと、その身長と大人びた面は同じ高三とは思えないんだけど……。ど?」
 コージの瞳をクゥは直視した。呼吸が頬に感じるほどの間近だった。コージは、クゥの息が唇にあたってくすぐったい。
「幼馴染の隣に住む綺麗なお姉さんで、オーケー。ん? コージ」
 クゥは小首を傾げた。喋りながらクゥの唇が、何度もコージの唇にふれていた。コージはそっと唇を遠ざけると、カスタードの甘味を感じた。「クゥ、さっきなに食べた? カスタードの味がしたけど」
 きょとん、と目をまあるくしたクゥは天井を見上げた。上半身を勢いに任せてベッドへ寝転がった。
「エクレア……六つ。チョコレートの味もしなかった?」
 力を抜いてベッドに身体を預け、けだるくコージを見上げるクゥ。首をねじって、全身を眺めるコージ。クゥとコージの視線が繋がる。
「それ、食べすぎだろ。六っ個って」
「うまかった。コージの分も持ってきたらよかったね」
 ちらり、とコージの視線がクゥのお腹にはしった。
「そんだけ食べたら残ってないだろ」
「あーそうだった。忘れてた」
 そういってクゥは、コージのトランククスのウエストゴムをつまんだ。引っ張ってパチンパチンとゴムを鳴らしている。クゥの、上のジャージの裾が捲くれあがり、へそが顔を覗かせていた。真っ白のもち肌があらわになっている。
 コージはクゥから視線を外した。なんとなく手持ちぶたさから、ギターを弾いた。ピアニシモの演奏。コージは背中越しにクゥに話し掛けた。
「お前、インナーぐらい着てこいよ。ジャージの下、裸かよ」
「あー違う違う。ブラ着けてるよ、下も。――みる?」
「はいはい、みないみない。みませんよー」
 コージの呆れたニュアンスだった。脚を組んだコージはコードを確認してピックを滑らせた。マイナーコードのBGMが奏でられる。
 一旦伸びをしたクゥは、薄っすらと生あくびをした。軽く目頭に微量の涙が溜まり、揉みこむように指の関節で涙を拭った。体を回転させて寝転がり、コージの腰に腕を回した。コージの硬い太腿に頭を乗せて、見上げた。「あいたっ」
 アコースティックギターにあたり、頭がずり落ちてベッドが弛む。
「パンイチの癖に、よく言いますな。コージ君」
 クゥはトランクスの縁を抓んで、揉んでいる。
「あらら? クゥさんも、みますか?」
 からかうようにコージは呟いた。
「うーん。もう、みえてるんだよね」
「あん?」
 コージは身体を捻って見下ろした。クゥの顔が、太腿のすぐ傍にあった。組んでいた脚の間を眺めていた。
 引き寄せられる感覚が互いによぎった。目があう。コージの手が止まった。ギターの和音が引いていった。扇風機のノイズが二人の耳をうった。扇風機の首振りの、カタンという振動が定期的に流れた。
 じっと視線が絡みあい、クゥの唇が震えた。
「したげよーか? コージ」
 おもむろにコージは立ち上がった。回していた腕が外れ、クゥの身体がベッドに埋もれた。
「あほか」
 コージは歩き出し、勉強机の椅子に座わる。山積みになったCDケースから、一番上に乗っているCDを手に取った。ブランキージェットシティーだった。
 ミニコンポの電源を入れ、CDトレイを吐き出させた。セットされていたCDを取り出し、先ほど手に取ったCDをトレイに載せる。再生ボタンを押そうとした瞬間、
「コージ、CDはいいよ」
 と、うつ伏せになっていたクゥが、ベッドに面を押しつけてくぐもった声色を囁いた。
 クゥは身体を返して上向きになった。腰を浮かせ、もぞもぞと枕元まで移動する。枕に頭をのせようとして身体をあげた。勢いよく頭を下ろすと、ベッドの木枠に後頭部をぶつけた。
「あいたた……」
 ずるずると、ぶつけた木枠から頭が滑り落ちて、枕に納まった。
「ばかだねー」
 コージは笑った。クゥを、尋常じゃないほど、抱きしめたくなった。
 コージは脚を伸ばして、扇風機をクゥに向けた。無理矢理に扇風機の首を捻じった。扇風機は逆の方向へ向けられ、反発してガガガ、と軋んだ。
「どお? クゥ、涼しい?」
 コージは言う。
「うんにゃ。生暖かい風がくるだけ」
 と、首を横に振る。クゥは薄っすらと微笑んだ。口元が開き、笑窪が浮きでる。
 クゥの唇が歪んだ。ぼそぼそと波打った。瞳の奥に愛情を宿した、やわいほほえみをした。
「コージ」
「ん?」
「うた、ききたい」
「なんの楽曲?」
「サニーデイ」
「アレ? いいけど……」
 コージはギターを担ぎなおした。脚を組み、箱を抱えた。ピックで頭の頭皮をこりこりと掻いた。そして構える。ピックを振り下ろすとき、一瞬、躊躇した。
 サニーデイ・サービスはどちらかというと、GS《グループサウンズ》やフォークに近い、と思い巡らせて苦笑した。
 コージはピックを振りあげたまま、片方の掌で箱を叩いた。リズムをとる。ツゥービート。
「じゃーいきますよー。クゥ」
 コージは身体を縦に揺らし、クゥを上目で覗き込んだ。
 クゥはすぅーっとコージを流しみて、ベッドの脇を叩いた。クッションの効いた沈んだ音が鳴る。
「コージ、こっち」
 いって、クゥはコージを立たせた。クゥはお腹を中心に体をくの字に曲げて、コージをベッドへ座らせる。猫のようにまるまって、脚をコージの太腿にのせ、膝をさわった。
「早く、うたえ」
「はいはい」
 コージはピックを振り下ろした。
 第一音。うねった。
 箱からの衝音がコージを介してクゥの胎に浸透する。

 水溜り走行《はし》る車両《くるま》に乗って、恋人攫《さら》って何処かへ行きたい。
 雨上がりの街鈍い光浴びて、虹に追われて何処かへ行きたいんです。
 日曜日に火を点けて燃やせば、喪失《なく》した週末が立ち昇る。
 デブでよろよろの太陽をみつめれば、白い幻影《まぼろし》が、ほぅら、映るんです。
 闇《よる》がやってきて僕に仄《ささや》くんだ。
 ねぇはやく、ねぇはやく、キスしなよって。
 雨が次いつ降るかわからないから、恋人《あのこ》を連れて何処かに行きたいんです。
 うーらららー。うーらららー。サヨナラ。
 夏が到来《き》てるって、誰かがいってたよ。

 何度も振りかぶったピック、肉厚の弦を叩きつける。粘りのあるナイロン弦は、押さえたコードの指から逃げ出すように、乱暴に弾けている。音色は箱のなかで共鳴しあって、暴力的に搾り出される。分厚く絡まったハーモニィーは室内を切り裂き、蠢いた。
 ねっとりと湿った微風が扇風機にのって、二人の身体に纏わりつく。室内温度が一気に上昇した。
 コージの額から汗が吹き出る。ティシャツが背中に張りついて、汗がひろがり、滲む。太腿に膜がはったように汗をかいている。
 クゥは、てのひらで、コージの温度とぬめった雫をかんじていた。
 コージはクゥを背中越しに確かめ、鋭くバッキングを繰り返す。じんっと胎に音楽が浸っていく。クゥも、じゅんわりと音楽が入り込んでいく。コージの胎がクゥの胎にエネルギィを伝える。
 コージの前髪から汗が飛び散った。うなじに汗が溢れていく。身体が急激に振動する。突き刺すように視線を外部《そと》へ送った。
「クゥ。うたえよ」
「ん」
 こくり、とクゥは頷いた。

 水溜り走行る車両に乗って、白い大きな車両に乗って。
 雨上がりの街鈍い光浴びて、恋人を連れて何処かに行きたいんです。
 らーららららーららららーららららー。
 らーららららーららららーららららー。

 コージの胸が上下に弾んだ。肺活量ぎりぎりの吐き出した息《ブレス》。歓喜《うたごえ》。そして烈しい衝動。コージはクゥにのしかかる。コージとクゥ、視線が繋がる。
 くの字に丸まっていたクゥの肩を押しつけ、コージは馬乗りになる。
「おもいぞ」
 クゥの真摯な眼差し。ねっとりと絡みついた視線。鼓動が高鳴る。二人は、暴力衝動に駆られた鼓動に胸を殴られた。馬乗りになって圧《お》さえつけていたクゥの両肩が軋んだ。
 コージはクゥの肩に手ごたえを感じ、一瞬にして破顔《はがん》した。体重を膝で支え、コージは肩から掌をすべられて、そっと手首を掴んだ。クゥの指の合間に、甘えるようにして指を差し込んだ。しっかりと握りしめる。
 クゥは一直線にコージの瞳をみつめている。
 なあクゥ、シャワー浴びた? ここにくる前に入ってきた。そっか……俺、まだ、入ってないんだけど。けど? しかも、おもいっきりシャウトしたし、汗だくだし。うん……、っで? だから、汗でべちゃべちゃだぜ。わたしも歌ったから、負けず劣らずコージとあんま変わらん、よ? クゥ気にする? 大して。それは良かった。どう致しまして。
 コージは汗で駄目にしたティシャツを脱ぎ捨てた。がっしりとしたコージの肉体から微量の熱気があがる。
 クゥは急いで俯いた。ジャージのジップアップを引き下げた。プラスティックの乾いた、心地いい快音がコージの耳をくすぐった。フロントフォックが、ちらりと顔を覗かせた。プラスティックの重量で、ジャージは身体を流れるように両サイドへ落ちた。
 脂肪ののった、ふにゃりとやわい身体が、コージの視線を縛りつける。簡素な刺繍がはいった綿糸のブラ。黄味がかった白。
 コージは迸った。性衝動とは言いがたい、愛《いつく》しむような昂ぶりが込み上げてきた。
 圧《お》し潰すほど、クゥの唇を貪《むさぼ》った。
 半ば抗えない男性の性的興奮、コージは貪ったままフォックを外す。丸みをおびた胸の谷間に指を這わせ、めり込ませる。何故か安堵と安らぎを覚えた。
 クゥの指先がコージの腋からトランクスへ向けて、するすると進む。遊んでいるような指の仕草。トランクスのギャザーウエストに人差し指と中指が進入する。コージは無意識に腰を浮かせた。クゥは指の先端まで神経を集中させて、トランクスを膝まで滑らせた。
「なんか言えよ、クゥ」
 谷間から瞳を潤ませて、コージは囁いた。
 クゥはコージの髪を撫でる。汗でねている髪を、丹念に手櫛をした。
「好きですよー」
「あっ俺も」
 と、コージの唇はヴォリュームのある肌に押し潰されて、くぐもった声があがった。
 コージの手も、クゥのジャージのウェストゴムをしっかりと掴んでいた。乱暴に引き下げた。クゥは手伝うように腰を浮かせて促した。
 するりとクゥの指が、コージの太腿を這う。
「コージ。固くなってる」
「当たり前でしょう」
「いつから?」
「そーねぇー。クゥが窓から出てきたときから」
「嘘つき」
「嘘じゃねーよ」
 握ったままクゥは思い返していた。無意識に親指が左右に揺れ、ぬめった感触を嗜んでいた。
「そういえば、トランクスの隙間からみえたとき元気だったわ」
「寝起きの朝立ちってやつ?」
「はいはい、コージ君。そういうことにしときましょうか?」
「うっせーよ!」
 コージは上半身を滑らせた。クゥの胸がへしゃげた。強引にクゥの唇を奪う。ぷつぷつと唾液が弾け、涎が溢れだす。クゥは何か言葉を発したが、コージの胎に吸い込まれていく。ふれた唇がもごもごと波打ったので、コージは顔をあげた。
 クゥの目尻がひくひくと痙攣している。頬はほんのりと薄桃《ピンク》。
「あーあたってる。当たってる」
 コージとクゥの胎がフレンチキッス。クゥは過敏に反応する、身体が反射的に浮き沈みをする。
 胎がきゅっと切なくなったクゥは、ぼうっとして壁を眺めた。コージの視線が突き刺さるのをかんじる。その真摯な眼差しが心地いい。このままことに運ぶとなると……とおもい、クゥはコージに尋ねた。
「コージ……。由佳ちゃんはどうしてる? 寝てる?」
 コージは顔をあげた。クゥが隣の、部屋の壁を眺めていることに気づいた。妹の、由佳の部屋だった。
 コージはクゥの髪を乱暴に乱《みだ》す。コージの掌が異様に熱を帯びていた。
「たぶん……」
 いってコージは、液晶モニター付近の床を目で追った。脱ぎ捨てたティシャツがあった。扇風機が、だるそうに首を振っていた。飲みかけのジャックダニエルの瓶が転がっていた。
 AVAMPに直結していたゲームハードが無くなっている。机に放り出していたソフトも数点、無くなっている。
「ゲームしてんのと違う? メガドラ無いし」
「ん」
 クゥは、その返答に満足して、自然に頷いた。
 上半身を起こしていたコージの喉元に、クゥの指が伸びた。口紅を引くようにコージの咽仏の曲線《ライン》をなぞった。痙攣したように、咽の筋肉が大きく脈打った。
「コージの声って野太いね。でも、高いキィは女の子みたいに、かぼそいよね。可愛い」
「嬉しくねーよ! そんなこといわれても」
 床に転がった酒瓶を取ろうと、コージは手を伸ばす。アルミのキャップを捻り、酒瓶を煽る。そしてラッパ飲み。大量にテネシーウィスキーを流し込んだ。口内から溢れた黄金の液体が、大玉になってクゥのお腹を叩く。
「高域の不安定さは気にしてんの! あー早く酒焼けしてハスキィになんないかなぁ」
 クゥは笑った。吹き出すでもなく、ほくそ笑むわけでもなく、大笑いしたわけでもない。ただ自然現象として、クゥは笑った。そこには含みや皮肉といった感情は皆無だった。
「鍛えろよ。コージは短絡的過ぎ」
 そういいながらクゥは、コージがJPOPの流行である中高域に寄った楽曲を練習しているのを知っていた。夜に聴く、コージの部屋の窓からこぼれるアコースティックギターの音色と歌声。咽から搾り出して、切なく奏でるメロディに耳を傾けながら過ごしていた。
「ホントは歌って鍛えてんの、それっぽい曲。でも気が乗らねーよな、ケミとかエグザイルとか……。ソウルねぇし。ジャパニーズポップシーンでソウルフルなんて、ウルフルズぐらいじゃん」
「だったらサンボマスター歌いなよ。ソウルフルだよね」
「えー、サンボなんてただのイエローモンキージャップじゃん。ジョンレノンの影響受けすぎ。ピースはわかるけど、馬鹿丸出しだぜ。それに俺、オノヨーコ否定派だし」
「オノヨーコ、誰それ?」
「知らなかったらいいよ、かなりどうでもいいし」
 と、コージはそういって酒瓶をクゥの頭上に差しだした。「ほれ」
 クゥはゆっくりとウィスキーを流し込んだ。とたんに噎せた。ごぼごぼと濁った異音が鳴った。
「駄目だわコージ。寝てると飲みにくい」
 コージはもう一度酒瓶を握って煽る。口内に液体を残したまま、酒瓶を放り投げた。酒瓶は湿ったティシャツに落ち、衝撃を和らげて、円を描くように転がっていった。
「ん……」
 コージは唇を重ねて、クゥの胎にウィスキーを注入した。クゥの咽が、上下するのがわかった。
 クゥの頬が赤く上気する。発端に全身が、胎の内側の赤味が透けて不透明な朱に染まっていく。
「酒弱い?」
 コージはいう。
「うんにゃ、ここからが長いよ」
 と首を横に振った。
 しばらく沈黙が流れた。コージはすっとクゥの両脚を抱えた。コージの体がクゥの身体にぴたりと着いた。
「ホント……ここからが長いよね」
 コージは片目を瞑りウィンク。悪戯っぽい仕草をして、頬を和らげた。
「あーホントだ。コージはねちっこいからね。まぁ、伝わってくるからいいけど」
「クゥさん、おそれいります」
「いえいえこちらこそ」
 クゥが愛しむような視線をコージに送る。クゥの動悸に、バスドラムに叩き込まれたキックのような一撃が走った。
 ありえないが、コージに激しい鼓動が聞こえたのではないか、とクゥは戸惑った。
「いきますよークゥ」
 そのいつもと変わらないコージの声に安堵した。
 瞬間。
 また一発の衝撃が鳴った。
 クゥは、いつもしてるのに慣れないものだな、と悪態を吐いた。
 しかし、コージは、部屋のドアへ振り向いた。
 クゥは顔を顰《しか》めた。私じゃないの?
 ドア越しに、聞きなれた甘い高音が流れた。
「お兄ちゃん! セーブの仕方教えてー」
 妹の由佳だった。由佳が部屋から出たときに発しられたドアの開閉だった。
 ドアノブがガチャガチャと暴れた。
 ドアが開かれた。
「あのね、あのね、お兄ちゃん。由佳ね、こんなゲームしたことなかったから、セーブの……」
 由佳の視界に二人が映し出されて、立ち尽くした。
 コージとクゥの視線が由佳に集中する。
 由佳の口が半開きになり、唇がパクパクと動く。混乱して、上手く言葉が出なかった。
 無言で由佳は一歩後ずさる。ドアを閉めた。
 膠着状態。
「うわーん! おとーさんおかーさん。おにーちゃんが! おねーちゃんが!」
 由佳は走り出して、階段を一気に駆け降りた。その衝撃が壁を伝って二人に知らせる。
「あう!」
 連続的に階段を降りる衝撃が走っていたが、一瞬の沈黙の後、不規則《ランダム》に強い地響きが鳴った。
 あきらかに由佳が足を踏み外して転げ落ちたのが、二人には嫌でもわかった。
 二人は見合わせた。視線が繋がる。
「やっぱり下に降りないと駄目だよな」
「まーお互いほとんど裸だし。呼ばれる前に、降りていったほうがいいよね」
 二人はふれるかふれないか微妙なキスをして立ち上がった。
 扇風機は規則的に首を振っている。生暖かい微風を運ぶ。

  1. 2008/04/30(水) 02:29:49|
  2. 短編作品|
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