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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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充足(一般エンタ)

 視界がぼやけている。足元がねっとりとしている。僕は直立しているのだ。
 よくわからない、が第一声だった。
 足の裏が粘っているので下を向くと、残念なことに視界がぼやけているために、色気が褐色にひろがっていた。
 体液なのか、自然的な液体なのか、はたまた人工的な液体なのかは判らないが、とりあえず粘っている液体が足元を覆っているのが解ったぐらいか。
 目を細めて辺りを覗《うかが》ってみる。まるでモノクロームフィルムのような安っぽいフィルターを掛けた映像だった。キャメラが寄る、そして引く。視界の色気が正常に戻りつつある。アイボリーの映像に、不意に人気《ひとけ》が飛び込んできた。
 僕の足元に人の股がある。いまだアイボリーに滲んでいて、足元に転がる人は赤系のスカートを穿いるとだけわかった。ペイズリー柄は確認できたが、その柄の着色が緋色なのか青紫なのかは把握できない。
 丁度、僕の左足が股の中心部に食い込んでいる。したがって、この女性と思《おぼ》しき人物の左足が僕の両足の合間にあるわけだ。
 意識が徐々に回復する。足元のねばねばが気になり片足を上げると、体勢がぐらぐらと揺れた。そして倒れた。そのとき、はじめて、落ちるという感覚が走った。
 床に腰を打ち付けて、僕はベッドの上で直立していたことに、気がついた。
 側頭部に激痛を覚えた。鼻にツンとくる、この感じ。衝撃の度合いが、ある一定を超えたのだ。掌を側頭部に差し込むと、ねろっとしている。生暖かい。掌を眼前へもっていくと、酸化していない真っ赤な鮮血に塗れていた。
 この時点で僕は、やっと意識が完全に回復して色素も正常に戻っていることがわかった。これで事態が把握できるという、頭部からの出血による不安よりも、安堵が全身を支配していた。
 起き上がり様に振り向くと、ガラステーブルが破損している。丸みを帯びた角だったが、一点だけ鋭く欠損している。その箇所から、稲妻のようなひび割れが中央に向かって突き進んでいた。
 そりゃぁ頭から血もでるわなぁ。僕は自然に伸びをした、生あくびも。生理現象に身を任せた。
 この状況で感覚がおかしくなったのだろう。全く記憶を辿れない。現在自分の出血よりも、この状況の把握の方が重要なのだから。
 ベッドに腰を掛けた。ポロシャツの胸ポケットから煙草を取り出そうとすると、直に指先が肌を触っていた。頭をぽりぽりと掻いて、緊張感のない声色をあげる。身体を眺めると、ポロシャツどころか全裸だった。
「おいおい全裸ですか……」
 ベッド脇に窓があるらしくカーテンで遮られ、隙間から薄っすらとした陽光が注ぎ込まれていた。
 皮肉にも全裸のお陰で肌寒さがはっきりとわかり、早朝なのだとおぼろげに理解した。
 昨晩はいったい……何をしていたんだろう、と首を捻る。コキュコキュと関節が鳴った。その場に緩和した空気が流れた。
 喉をごろごろと震わせると痰が絡んだ。喉の渇きが絶頂だったが、ニコチンの摂取の欲求と体からの要求が絶頂に達していた。僕はテーブル辺りを見渡して、ポロシャツを探す。小奇麗に畳まれた衣服が、ベッドの傍にあった。
 ジーンズの上にポロシャツ、その上にトランクスとソックス。記憶の断片を追ったとしても自分で折り畳んだとは思えなかった。自分の性格上、無いと考える方がより自然である。
 そして、この女性が折り畳んだものと考えるのが、ベターだ。
 胸ポケットに、煙草特有の角張った膨らみが無い。仕方なく着替えるだけ着替えてしまって、煙草を探すことにした。テーブルから少し離れた場所に煙草が転がっていた。先ほど頭をぶつけた拍子に飛んでしまったのだろう、ワンルームの一室の片隅に煙草と百円ライターがあった。
 その煙草の真横に一枚のメモ帳。
 僕の、特徴ある丸字で書かれてある。
 ――お前は転がっている彼女を殺す。できればこれを見た瞬間、この部屋から逃げ出せ。
 確かに自身の文字だった。目を疑ったが、そこに紛れは、無い。
「それじゃあ」
 振り返った。ベッドを凝視する。女性だ。それはわかっている、スカートを穿いているから女性と判断したが。僕の知り合いにオカマや性同一障害者は居ない。半笑いでニヤけた面のまま横たわっている人物は見間違いようもない。
 彼女だ。
 彼女を一瞥して呻いた。幾度もなく嗚咽がこみ上げる。絡まっていた痰が口内の奥にひろがり、ぷつぷつ気泡が弾ける。我慢できず痰を吐き出す。絨毯の毛先が粘状の体液を吸い込み、こんもりと盛り上がった。
 思わず足の裏を触る。粘着した液体が乾燥して固形物になっていた。引っ掻くように足の裏をほじると、ぼたっと厚みのある物体が剥がれ落ちた。凝固した血液だった。鈍く表面が波打っている、酸化したどす黒い血液。
 彼女の股から大量の血液がベッドに沈殿していたのだ。異様に黒々としているが、結晶板が黄色く覆い、表面は半透明に艶やかだった。ところどころ血液が集まり乾燥しきれず、斑模様になっていた。
 しかし、僕は意識を失う前に、お前は彼女を殺す、と記入していた。まだ彼女は死んでいないのだろうか?
 いったいどのタイミングでこのメモを残したのかはわからないが、意識を戻した僕に対して警告を発しているのだろう。
 彼女は両脚を伸ばし、しっかりと股を開いていた。ペイズリィ柄のロングスカートはこげ茶に染まって、半分以上捲れあがっている。ショーツは片方の太腿の中間に引っ掛かり、血液を吸えるだけ吸い込んでいる。ティシャツも乳房の上まで捲られている、鎖骨の下あたりまでだ。ブラはフォックが外れ、だらしなく腹の辺りまでずり下がっている。半笑いのニヤついた表情が、堪らない。
 頭が割れるように痛い。耳の裏が生暖かい。ぬるぬると滑るように血液が垂れ流れている。側頭部からの血が、いまだ止まっていない。
 流れ出る鮮血が貧血を誘っている。また目の前が霞みかかってきた。脳に血液があまりいっていないのか、脳に辿り着いた血液がそのまま側頭部から流れ出ているのか。冷静さを欠いているのは確かだ。
 ……冷静さを欠いているのに確かだ、と断定する自分に嘲笑が漏れる。
 とにかく、過度にドーパミンを噴出させてアドレナリンが分泌している。軽い躁《そう》状態だ。安定しない思考が物語っている。
 この半笑いの面で死んでいるのかいないのか、彼女は寝息の一つもたてていない。
 全身に苛立ちが這った。
 僕はどうしたいんだ。何を求めているんだ。過去の自分は、現在の僕に何を伝えたかった?
 手を伸ばして、転がっていた煙草を拾う。限界まで主流煙を肺に溜め込んだ。くらりと頭が揺れる。既に煙草による酸欠なのか出血による酸欠なのか、判断さえ喪失していた。
 彼女の腰の付近に座り、火種を発火させた。ぐんっと煙が胎に染入る。
 情報が不足しすぎている。
 一通のメモ、血塗れの彼女、現在は早朝、これだけで何を推理しようというのだ。
 ついでに側頭部からの出血と……。――これはどうでもいい。
 不意に背中に丸みを帯びた非常に柔《やわ》い感触があった。首筋に人肌の感触。
「うーん……おはよぉ。すっごい良かったよ……。あんな趣味があるとは思わなかったな」
「あん?」
 顔を捩ると、彼女の面がそこにあった。混乱が生じる。
「だからぁ、今日は生理だから駄目だって言ったのにぃ、無茶するんだから。あーあ汚しちゃったなぁ」
 沸々と怒りが込み上げてきた。
 ただのマニアックなプレイじゃねーか! てめぇなに興奮してんだよ。
 油分が浮いている。固形物が混じっている。
 やられた。勘違いだった。生理ですよ、生理。
 しかし、これで話しが終わることはなかった……。
「ごめん、先シャワー浴びてくるね。もうね、ぐっちゃぐちゃじゃない」
 と、彼女は欠伸を軽く抑えながら、けだるくベットから立ち上がった。
「ああ、そうですか」 
 僕はようやくメモ帳の文字の意味を理解した。そういうことだったのだ。昨晩の記憶も取り戻した。
 下半身が硬直をはじめる。身体では、直立の準備がはじまろうとしている。そして、僕は行動に移すだろう、抗えない快楽によって。このメモの文面、お前は転がっている彼女を殺す。
 ベッドから立ち上がった彼女は、捲れたスカートを直そうとしたが乾燥した血液が固まって上手く出来ない。ぱりぱりと音をなして砕け落ちるだけだった。
 僕はガラステーブルの両脚を握り締めた。
「おーい、そこの彼女お茶しない?」
「んん?」
 彼女の振り向き様。
 僕はテーブルを投げつけた。
 結構な重量のため、投げつけたテーブルの放物線はだらしない反比例のような弧を描いた。そして脇腹にめり込んだ。彼女は半目を開いて、苦渋の面持ちを浮かべる。
 駆け出して彼女の前髪を掴む、その勢いのままテーブルに額を打ち付けた。跳ね返すような感触があった。元々テーブルにはひびが入っていたが、それを深く刻んだだけだった。ぱっくりと彼女の額が割れる。――無言。前髪から後頭部へ髪を持ち替えてもう一度、額を叩き込んだ。
 完全に貫通した感触だった。ガラス面を貫通して、自分の手首にガラスが突き刺さっているのだ。引き抜き様、めりめりと皮膚が剥がれる。血が吹き出る。
 彼女の体は、くの字に折れ曲がっていた。
 その途端、僕は満たされた。充足したのだ。
 ちりちりと電流が脊髄を駆け抜け、脳天から昇華する感覚。一気に痺れた。硬直は絶頂を迎える。勃起して波打っている。意識が遠のき、また直立がはじまる。既に、何度目かの硬直を迎えているだろうことは理解したが、もう、この時点で、この硬直……充足から逃れることは不可能なのかもしれない。
 時間が限られた。意識を失う前に、また目覚める自身に対してメモを託さなくては。
 いや、どっちだ?
 求めている、否定している、この充足を……。
 ゴミ箱に彼女を殺す、と書かれたメモを捨てた。記憶が戻っているのでメモとボールペンの場所は知っている。
 一応、ゴミ箱を漁って、もう一枚捨ててあろうメモを確認する。
 あった。前回のメモ。
 ――お前は彼女を無茶苦茶に犯すだろう。できれば、目覚めたら素直に寝ることをお勧めする。
 エスカレートする欲求が自己を貶めた。いや、突き進めた。そう、充足が僕を歓迎した。
 このメモをみて、味わった充足を思い出した。
 その時の僕は、生理中の彼女を犯すだけだった。一気に充足した。そこで止めれば良かったんだが、味わってしまった充足は更にエスカレートする結果をもたらした。
 本来ならば、今回は至らなかったかもしれない。殺すところまでいくこともなかったかもしれない。しかし、この側頭部からいまだだらだらと溢れる鮮血がその冷静さを失わせ、現在に至ったのではないか。脳が視覚聴覚嗅覚触覚、快楽を渇望している。
 しかも。その失敗を上回るほどの充足感。もう次回の結果は同じだ。また快楽を得るだろう。もう止められない、止めることの無意味さが硬直を是正する。
 
 
 僕は書く、メモ帳に最期の充足を求めて。
 ――お前は死姦するだろう。もう止めても無駄だよねー。
 僕は直立した。意識が消し飛んだ。
  1. 2010/01/09(土) 21:42:45|
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さわやか雪歩さん cosmos ver.

 

 半年前から構想していた作品、kosmos cosmos×さわやか三組です。
 ちょうど合作うp直前で、どぎまぎしていたので、気を紛らわすために製作していました。
 いやはやなんちゅーか、初めての4桁なのでかなりうれしいです。



 だいたいこの二つはびったり合うなーとは思っていたのですが、ここまでしっくりくるとはおもわなんだですねぇ。雪歩恐ろしい子。さわやか三組のためにコスモスがあるのかコスモスのためにさわやか三組があるのか……。たぶん後者でしょう。
 ネタだとしても、6割がたガチで作ってたんですが、さすがに出来上がり聴いたらサビで吹きましたw雪歩の本気な歌いっぷりにシュールを感じました。

 説明ですね。
 抽出されたvoは元々ゲーム音源と違ってつくりがしっかりしていて、あまり加工することはないんですね。ノイズ消したり音量上げたりすることもなく、結構リヴァーブが掛かっているので下手にリヴァーブやらディレイかけられないために、音質弄ったり音場調節するぐらいです。
 今回はさわやか三組の、あの颯爽とした少年少女のvoも生かさなければ意味がないので、あまりvoを飛ばないように雪歩の美声とダンスするように調節しました。
 それでもメインは雪歩なので、若干雪歩のボリュームは大きめに、前方で真ん中にくるように設定してあります。冒頭のコーラスはステレオパン振りで真ん中を空けて、ベース音を真ん中で鳴らしています。コーラスのボリュームはオケと同じでオケに馴染ませてあります。

 仕上がりは、全体をメタっとした音質にしたかったので、グライコで中音を抑えコンプで原音出力なしにして、圧縮された音を出力しています。気持ちよく出力が下りますので、リミッターで底上げしてあります。

 うーん。今回はまずまずの出来栄え。ネタだけに4桁再生取れましたが……。次回から厳しいんだろーなー。
  1. 2009/03/10(火) 12:36:47|
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アイドルマスター ニコニコメドレー feat.皐月Project 感想

 

 終わってみて物凄い脱力感があります。初めて企画というものに参加した訳ですが、こんなにも熱気と熱意とシビアさを合わせもった夢みたいな約三ヶ月間でした。
 層々たるメンバーの中で、オマケのような位置で参加させて頂きました。だってPVつくれないんだもーん!
 当初はメドレー編集という仕事を携わっていたのですが、諸々の事情により作品を製作することになりました。一度はノータッチで抜けようとやんわりIRCでカキコしたのですが、さすがはリーダー遊太郎Pそうはさせじと、このまま編集続けるか作品製作で熱い思いをぶつけてくれ、と。二択を迫られまして、作品を製作することに決めました。(抜けると士気も下がるし嫌な空気になるのも申し訳ないな、と)
 しかし、あの時、抜けないで本当に良かった。強烈に痛感しております。この異様な胸のざわめきと高揚した歓喜! 普通にニコマスうpしているだけでは味わえないと思います。このような機会与えて頂いたリーダー遊太郎P、参加したプロデューサー皆々様。本当にありがとうございました。

 だもんげ。音屋だからなんも技術もセンスもないPV作るぐらいだったら、いっそのとこ知り合いの絵師に頼んでCGとテロップとネタで勝負にいった方が良いと判断したのは内緒なw 自分の世界観を表現しようとしたんだYO!


 そんなこんなで知り合いの絵師はニコ動初デビューにしていきなりランキング一位になる程の、超ど級の作品に運良く参加した訳ですが……。そこにはちゃんと落ちがあって、加工されくちゃくちゃにされるという素敵なことになりました。いやー良かった×2
 次はうちのマッシュアップ作品のイラストを依頼する話は通っているので、また見れると思います。

 最後に、このいけいけGOGOじゃーんっぷ! な合作の出来は、かがたけPが参加Pのやる気と情熱を、奮い立たせた経緯を書いてたんですが、思いっきり消してしまったので諦めます。そんな日もありますよねー。
 
 ちゅーことでみんなーありがとねー
 米)コメにて5時体育館裏に来い! というお達しがあったのでいってきます。(現在21:50)
 あと小さい状態のサムネイルでロゴがハンバーガーに見えるのは俺だけでしょうか?
 
  
 
  1. 2009/03/09(月) 19:10:52|
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お久しぶりです

どもー携帯から失礼します。友人のイトウちゃんから更新がない、とせっつかれまして、記事を書くことにしたんですが。
書くことがない。
というか、小説書いてないってのが現状で、ここ半年の間ずっとニコニコ動画のうp主やってます。

いやーアイドルマスターのリミックスにはまっちゃって、音づくりばっかりやってます。
もうね、ここでコーナー作って、アイマスremixの製作記でも始めようかなぁーという具合にまでなっちゃってますね。
でも面倒くさいのでやらないかもしれません。
小説は、ネタ自体は持ってるので、そのうち気が向いたら書くかもしれません。それよりもアイマス製作記のほうが早いかも?

まとまりがじぇんっじぇんないですが、生存確認と近況報告でした。
  1. 2009/02/14(土) 08:52:25|
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今日からわたしは思春期なのだ!

 放課後、学校帰りの途中にある書店に寄った。
 ふと目に留まった、オンナ三十路を越えてからが勝負でしょう、という名前も知らない作家の文庫本を購入した。
 わたしは三十路どころか中学に入ったばかりの十三歳の女子で、女性の色気なんてものはほど遠い。どちらかといえばしょんべん臭いガキと呼ばれるような、そばかすの残る女の子なのだ。
 でも、わたしはこの本を購入して満足しているみたいだ。
 すごく他人行儀な、傍目のような感覚。
 なんとなくこのような感覚に囚われた理由は、わたしが思春期を迎えたのかなぁ……。なんておもってみたんだけど、間違っているような気がするし、間違ってないような気もするし。たぶん、それが思春期を迎えるってことなんだろうと、へんに納得してみるのも一つなのでしょうか……どうでしょう。
 というわけで、思春期とやらを、こんな形で受け入れることになった。
 嬉しいのやらかなしいのやら。どうせだったら好きな男の子に告白されて、恥かしさのあまり、お断りさせて頂きます! と逃げ出して、電柱の影で後悔しながら、でもドキドキしてみたかった。
 人生おもいもよらない、おもいがけないこともあるって、新婚の体育教師がいっていたのを思い出しました。
「センセイ……。センセイが話していた、キャバクラの名刺がお嫁さんに見つかってエライ事件ですよ、よりも事件ですよ! もっといい形での迎え方を希望しますよ!」
 などと、嘆いたみたところで、この高鳴る動悸は治まらない。
 ものすごく遠い場所から自分を眺めているような……。先にある精肉屋の二階のベランダから私を眺めて、あーこの娘って男子に告白されて舞い上がっているのかぁ? おいおい、いいじゃんいいじゃんわたしぃ、とニヨニヨしてしまう自分がいた。
 ということで、なんとも微妙な思春期を受け入れつつ、そして思春期にありがちな、訳もわからず涙が零れてきたので実はわたしは哀しかったんだぁといった、後になって理解する自分を自覚することになった。
 うん! 思春期なんだから年上の女性に憧れる、なんてこともあるでしょう。
「思春期な自分に乾杯」
 小一時間とまではいかないけど二十分ほど物思いに耽っていたのか、やや辺りが暗くなりはじめてくる。暗闇が馴染んでくるみたいだ。
 少々足早に、帰路に着くと、前方にメリケン焼き屋があった。実際にはキャベツしか入っていないお好み焼きなのだが。一つ八十円といったリーズナブルさが、中学生の小腹を満たすにはうってつけなのだ。
 そこに同級生の男子が居た。二学期の席替えで隣になった男子だ。背はまあまあ、顔もまあまあ、雰囲気はちょっとトゲがあるけどそれは照れを隠しているのがばればれだから、淡い優しさに溢れている彼だった。
「なに? メリケン焼き? 安く上げるねぇ」
 彼の背後から近づいて声を掛けた。
「なんだお前か。ほら安いじゃんここ、晩飯までもつよな」
「ふーん」
 なにを言い訳しているのか、そんなことまでべつに訊いていない。
 それよりもどういう訳か、彼がは怪訝に表情を歪ませた。
「なによ、わたしへんなことゆった?」
 彼は首を捻ってわたしから顔をそらした。そのしぐさが怪訝に、というよりも困ってしまって無意識にそむけた、というようなニュアンスだった。
 うーん。どうしたよー、なんかしましたか?
 と、ここで疑問符がよぎった。あれ? 彼との距離ってこんなに近かったのだろうか。いってしまえば吐息がかかるほどの距離に、そのまあまあで愛嬌のある顔があるのだ。
 ああ、彼の肌って間近でみると、朱色のニキビが結構あるんだ。レモンを食えレモンを。レモンを食って顔をくちゃくちゃに顰めさせて、そしてビタミンを摂取するのだ。
「お前さぁ、ちょっと離れてくれよ」
 そういって彼はわたしの肩をぐっと掴んで、押し出すようにしてばりばりっと身体を剥がした。
 そうなのだ、これが思春期の嫌がらせってやつなのだ!
 彼の腕をとってしっかりと握り締めていた自分が居たらしく、沸騰するような彼のぬくもりが胸にのこっていた。おい、思春期とやら、てめぇ行動するんだったら先にわたしに云え。彼もわたしもびっくりするだろうが……馬鹿者。
「なに赤くなってんだよ……」
「え? わたし赤くなってる?」
 もう最悪だ。頬を染めた自覚もない。さぞかし彼に、潤んだ瞳でラヴラヴビームを放っていたことだろう。
 なぜ思春期によって乙女心を自覚させられねばいけないのだ。淡い恋心をあたたかく育ませる時間、片思いの甘酸っぱい気持ちを味わうこと、それが出来なくなってしまったじゃないのさ。
 いきなり告白、いきなりセックスなんて、三十路を越えたオンナがすることなの!
「ちょっとこっちきて!」
 彼の手を取った。この先に公園があるのだ。彼はつんのめりながらわたしに引っぱられている。
 彼の、眉を寄せて甘く砕けた表情にわたしは、なんともいえない背筋を這うような微量の電流を感じた。耳の裏っかわが心地いいぐらいぴりぴりと痺れたのだ。
 嗚呼……。思春期が勝手に反応してしまっている。三十路のオンナはこうなんな風にオトコと対峙すのか。
 凄すぎる! いったいどうやって思春期真っ只中の三十路のオンナは、このうねるような激流をこの激しい濁流を、我がもの顔で突き進んでいられるのか。
 早すぎるよぉー。思春期とやらは子供だったわたしを急激に大人へと変化させたのだ。
 公園の出入り口は五段ほどの浅ひろい階段で、なだらかな下りになっている。彼が転ばない程度に引っぱってゆき、近くのベンチに腰掛けた。
 そのベンチは背もたれが無いタイプだ。しかも少々腐食していて安定感が悪い。お尻を密着させると、みしみし……なんて木片が軋んだ。あーうー結構傷つく――わたしのお尻はそんなに重くないぞ。
 彼は笑った。微笑みではなくて、やわらかくてあったかい、くだけたほほえみだ。微笑みのようなマイナスイメージの印象ではないのだ。その彼の子供っぽい表情を受けてわたしは、胎《からだ》の芯まで彼が浸っていくのだ。
「好き」
 無意識の告白、そう後で気づいた。
 わたしは三十路のオンナになった……。でも声がうわずっていた。けっして三十年の年月を積み重ねたオンナじゃない、十三歳の未発達なオンナなのだ。だから掠れるようにうわずったへんな声が出たのか。
 彼を見詰める。距離が詰まる。鼻頭がふれあうほどの距離が、わたしの心臓をどっこどっこと打ち鳴らした。
 その様が、とても三十路のオンナに思えない。うわべだけのオンナなのだ。
 なにか足りない。
 全然スマートじゃない!
 もっと、こう、痺れるようなオンナのフェロモンが、彼を包むように漂うはずなのだ。
 肩口から腕の関節までを締めつけられた。突然、二の腕が固く鎖されて、熱を帯びている。ああ、彼の胸の中にわたしがいるのだ。二の腕の表面がおののくほど熱いのだけれど、内っかわはじゅんわりとあったかい。電子レンジでチンッとゆわしたような、彼の放電子が胎内を駆け巡る。
 あのぅ、もっと手加減してくれませんか? お願いしますのよー。
 そりゃあもう、鼻頭がこつこつとあたってる状態なので、彼の鼻息が上唇にばしばしとねぇ。きいてますか、きいてないですよねぇ、というか云ってないし。むむむ。脳細胞がぽしぽしと瞬きをしているみたいだ。あれぇ、おそろしく混乱している。
 あうあうあー、口唇が塞がれる。彼のかさかさの質感が妙にはっきりと感じ取れる。こんどのは表面が冷たくて、でもぶしつけに圧しあてられて、くちびるの芯がぬくいのだ。だった。なぜかだったといい直して、気持ちはドッキドキなのだ!
 わたしの答えはNOだけどやっぱりYES。これがつんでれってやつなのかなぁ。そうなのか、キャバクラの名刺で一杯くわされた体育教師のお嫁さんは、こんな気持ちなのか。
 しかも――右のおっぱいを彼は左のてのひらでもしゃもしゃしている。
 おいこら、誰もそこまでしていいなんていってないぞぉー。やっぱりYESなのだ。
 だけど、服のうえからなんて、しかもブレザーのうえからなんて、本当のさわり心地なんてわかんないんじゃないのかな。あーあ、彼の不憫さをおもうと、可哀相になってくる。
「体育教師の若妻がつんでれ」
「え? なに?」
「キャバクラの名刺で大変お世話になったセンセイの幼な妻がつんでれでれでれぇ」
 と、いい放ったら。彼は目蓋をぽしぽしと瞬き慄き、漫画のような吹き出しが頭上でぐぐぐ……、と表現したように眼球が見開かれた。
 さも激しく、みるからに驚いたと云わんばかりの彼に、どちらかといえば愕いたようなしぐさに、私は少々安堵した。それはそれは場違いなつんでれでれでれぇと放たれた言葉の反応としては、至極まっとうなのだった。
 ちゃんと彼はおっぱいをわしづかみにした事実をわきまえているのだ。そしてちゃんと羞恥心を持ち合わせている。愕いた表情とは、羞恥心がなければ表にはあわられないのだ。
 彼の可愛らしさにわたしは、つい追い討ちを掛けてしまう。
「おい! おっぱいは越権行為ナノダヨー」
「あっああ――ごめっ、気づいたらキスしてた、気づいたら、うぅ……」
 するりと彼は視界から消えた。
 みしみし、とベンチの、打ちっぱなしの木片を地味に鳴らして、彼は落っこちたのだ。
 きゅうに肩のあたりが寒くなって、寂しくなったのだけれど。
 彼も思春期だったのだ! 気づいたら、気がついたら、って! 
 オンナになったばかりのわたし口唇を奪って、ふくらみはじめたおっぱいをわしゃわしゃと揉んでおいて――思春期のせいにするなんて! 
 ベンチには背もたれがなかったので、彼は防波堤もなく落っこちていった。彼は頭を打ったのだろう、うぅぅうぅぅと左右に体を振って、もんどりうっている。これは、とーぜんの報いなのだ。
 でも、死ななくてよかった。思春期の野郎によって暴走したあげく、防波堤もなく頭を打って死んじゃったら、目も当てられない。
 手を差し伸べてやろうか、なんておもったけれど。そこはやっぱりとーぜんの報いであって、然るべき報復を噛みしめて戴くとして……。ああ、わたしも思春期の、とーぜんの報いを受けるのか? しかしそれはそれなので、あれはあれで、そうだ! わたしは思春期ってやつの、とーぜんの報いは、しっかりと受けとめたのだ。
 彼によって口唇と発育途上のおっぱいを奪われたのだから、よしとしようではないか。
 暫くしてから、ちょっと恥かしそうにしてそっぽを向いている彼に、わたしは手を差し伸べた。
 背筋をぴんと張って、姿勢を正した。彼がもぞもぞと、子猫のようにこぢんまりと丸まってベンチに座る。自分でも悪戯《わるふざけ》をしてるなぁー、とおもいながら、彼の太腿にてのひらをそえてみた。
「痛かった? すんげく痛かった?」
「うん」
 俯き加減で頭を下げる。わたしは彼の背中に手をそっとあてる。彼は後頭部を気にしながら、むずがるのだった。
「どーしてキスしたの? おっぱいもさわるし……」
 少しだけ怒った風味を雑ぜつつ、でもたしなめるように呟く。これは意図した追い討ちだ。くすくすと笑いを堪えるのに精一杯。
「どうしてって」
 下がっていた彼の頭は、さらに深く落ち込んでいった。ふれるかふれないかの微妙な感触で太腿に置いていたてのひらを、やけどするぐらいの熱い彼のてのひらがぎゅっとにぎる。
「それは……」
「それは?」
「――もう別にいいじゃんか」
 おい! どゆこと? あーた、思春期ってやつのしわざでしょーが。
 わたしは、ぺっと彼の手を振り払ってやった。そしてしらじらしく背中にあてていた手を除《の》けて、密着していた身体をはずしてやったのだ。でもね、心の中では、怒ってないよーばーかばーか、なんてウィンクした気分。これがいわゆる、つんでれでれでれぇつーんーでーれーなのだ。
 わたしは勢いよく立ち上がって、彼に背を向ける。あとは彼が焦って本当のことを云えばいいのだ。好きだ! って告白してもいいんだよ? 三十路の思春期の、いきなりのカミングアウトにいきなりの実践、ざっくりその渦中にあるんだから。
 ごくり、と大袈裟に彼の咽喉が鳴った。
「ごめん! 別にいいことないよな。アレだよ、男の性っていうか……生理現象っていうか。やっちまったっていうか」
 んん? あれれ? おかしいぞ? 可笑しいと笑ってしまうぐらいのおかしさがあるぞ? どうしたのだ? わたしが美少女といえば、そばかす混じりの童顔娘がなにいってやんのぉー三つ編でもしてなさいな、なんだけど――
 まぁね、学年の真ん中から数えて下に二つ三つってなもんの、まずまず、自慢出来ないまでも彼女として紹介するぶんには卑下することもないキュートなわたしだけど、あんなことやこんなことをしておいて、男の性ってましてや生理現象って……。
 てめぇ、誘惑に負けた思春期の発露じゃなかったの! そのファクターが若干数、オンナに対する態度としてすんげく紳士的じゃない!
 振り返って彼を見据えた。自分の表情がいったいどういったものだったのかはわからないけど、彼の面が急激に強張りはじめたのだ。そんな彼の姿から、現在わたしの表情がそりゃーもうすんげく怒り心頭しているのだろう、と易《あん》に理解できた。
「俺も、お前のこと、前から好きだったんだ」
 その彼の切実な言葉とせつない態度で、少しだけ息が詰まった。ぐるぐると彼の思惑のようなものを想像しているうちに、
「なんかさぁ、お前の変わったところなんかがすげー可愛いっていうか好きなんだよー」
「ヘンジャナイデスヨー感受性ガ豊カナダケデスヨー」
 そうなのだ。どさくさに紛れて彼が告白するものだから、緩みきった頬で答えてやったのだ。
 だけど実に曖昧で複雑な内心なのだ。ちょっと、てゆうかかなり喜んじゃっているわたしが居て。すんげく、とゆうか恥かしいぐらいあきらかに彼は誤魔化しているのが、御無体なぁーといいますか。も一回つづけさまにキスして虜に、……取り込んでやろうかねぇ、などとニヤついた堕天使が耳元で囁くのだった。
 で、結局。
 さらに、すきなんだよー、と彼が切迫した面持ちでわたしのすべてを抱きしめるものだから、あいしてーるーとーてーもー、って同級生は一人も知らないんじゃなかろーかスターにしきのベストソングを奏でてしまった。
 自分が傾《かぶい》てしまっているとして(スターにきしののあたりが)、それよりも自分の美声はアニメティックだなぁ、なんて関心しているあたりがれっきとした変人なのだ、と認識した。もしくは誤認したかった。
 したらば結局。
 デモ、ヘンジンジャナイデスヨー。コレハシシュンキーノヤリクチナダケダヨー。とーぜん! 思春期のせいにしてやったのだった。
「弁論の余地はないのだよー。思春期にそんな権限はないのだ!」
 そうなのだ。思春期の癖にぞんざいな扱いを受けている、などと抗議される所以はないのだ。思春期の尊厳とか人権(ひとではないので因権になるのだろうか)を当然として要求するならば、そんなものへし折ってやる。なんだったら、上手く誤魔化せたー助かったよー、なんて胸を撫で下ろしてる彼に喰らわせてやる。
「なにかいった? 弁論ってなんだよ」
 あっ、彼が焦ってる。そんなつもりはなかったのにな。
「ナンデモナイヨー」
「なに笑ってんだよ」
「そんなことないって」
 頬の綻びがとまんない。誤魔化したのがばれた、とおもって彼がめっちゃ焦ってるから、どーしても笑ってしまっている。
 彼に中断されたけれど、まー彼の無理矢理に揚々とさせた顔を眺めると満足しているわたしが居て、それはともかく思春期って野郎にやさしくしてあげるつもりは毛頭ないのだ。やさしくしてやったら、そりゃーもーつけあがるに違いない! だってですよ、たまたま告白だけで済んだかもしれないじゃないですか。もしかしたら、自分から彼の手を取っておっぱいさわらせてたかも――。
 うぉ、こわすぎる! むりむりむり、思春期に権利と主張を与えるのは自殺行為ってやつなのです。
 やっぱり、どーして三十路のオンナは平然としていられるのだ。思春期を飼いならせているのかなぁ。……うーん。
「どーしたよ」
 彼はわたしの顔を覗きこんだ。
「そろそろ帰ろっか」
「おう」
 抱きしめられていた彼の身体からすり抜けて、また彼の手首を引っぱった。公園の出入り口に向かって指を差した。
「行こ」
 なだらかな階段を一歩づつのぼっていく。これがいわゆる、大人の階段のぼるってやつなのだろうか。いって、すんげくアーハズカシィ。我ながら御《ぎょ》し難い、なんて普段使わないような科白を独白して、盛大にふいてしまった。
 彼はわたしに追いついて、肩を並べて歩きだした。もう既に手首からてのひらを重ねてしっかりと握っている。彼は口をひらいた。そしてわたしもだ。
 なにふいてんだよー。あのね、そろそろこのパターンも飽きてきたなって。意味わからんし。ごめん! それは本当に謝る、ごめんなさい。いいよ別に……。あー怒ってる? 怒ってねぇーよ。
 あたりはいっそう暗くなっていた。商店街から抜けた先の道は、街路樹におおわれている。街灯が点々と画一に照らしているのがわかって、こんなにまじまじと眺めて気にしたのもはじめてだなぁー、とおもったのだ。
 なんとなく無言がつづいて、そしてなんとなく彼と目があって、なんとなく逸らして、息があったように夜空を見上げていた。
 星はものすごく遠く一等星が幽かにみえるぐらい、その夜空にぼんやりした満月が低い位置に居た。その姿はびっくりするぐらいになげやりだったのだ。
「あのねー」
「ん?」
 あの野郎がねー、と云いかけて口を噤んだ。そうだ、思春期のあんにゃろーの話をしても、彼には一〇〇%伝わらない。むしろ、あの野郎といってしまえば、彼が心配するかもしれないのだ。一応、女の子のていにしてみたのだった。
「友達の娘《こ》に、嫌いじゃないけどすんげく酷いことするのがいてねー、わたしをげしげしと陥れようするのさー」
「それで?」
「でねでねでね、あんにゃろーは烈しく恥かしいことを強要する癖に、自分は正当な権利を主張するわけさー。あんまりにもムカつくから、わたしの失敗も都合のわるいことも全部あんにゃろーのせいにしてやって、自尊心と羞恥心を防衛するのだよー」
「たまーにお前は難しいこと言いだすから、びびる。でも、仲いいんじゃねーの? お前もあんま怒ってるようにもみえないし」
「そう?」
「怒ってんの?」
「うーん、そんなに、かな。お互いさまでしょうか」
 そう云うと彼は、わたしの髪の毛をわしゃわしゃとかきまわすのだった。
 うん、全力で彼の脇腹に拳をたたき込みたい。ってゆうか、おっぱいと一緒のさわりかたですか、おい。
 オモイ返シテ、ジュンワリトフクラミニヒロガルヨーナ文学的要素ハナイデスヨー。
「でも、まぁ、友達やめないまでも、いっぺんその娘と離れてみたらいいんじゃねーの。落ち着いたら仲良くすりゃーいいし、縁切るまでもねーじゃん。嫌いじゃないんだし」
「そ、そうっすか……。そんなこと出来るんでしょーか」
「知《し》んねーけど。距離置いてる間になんか色々あんじゃねーの」
「ええぇ! そんなこと出来るんですか! 縁って、切れるものなのですかー」
「ちょっと待てよ。縁切るまでもねぇっていったじゃん」
「ああ……。そうでしたね。いったん、離れてみるってこと考えもしなかったものですから。いやはや、想像ってものが、全然、全くといっていいほど」
「へぇ。それじゃー、お前、ソイツのこと、結構好きなんじゃないの? ほら、好きすぎて近くにいるからさーウゼェって感じるんだろ」
「うっ、それは衝撃的ですよー。なんっすか、そのハリケーンパンチみたいな破壊力は!」
 やややや、正直その発想はなかったのだ。この対、思春期に於ける前衛的なアプローチはいったいぜんたい、わたしにどーゆーヒントを与えてくれるのだろうか。
「だからさぁー。まーお互い落ち着くまで距離おいてさー、それから仲良くなりゃーいいんだよ。お前も大人になるっていうか、大人の対応が出来るようになればさ、その娘とまた楽しくできるって」
 うーん……うーん……。なんでしょうか、もんのすげく彼が答えのようなものを云ってくれている気がするんですけど。ドラえもんでいう、しずかちゃんのオールマイティ牌が入って即どんじゃら! みたいな。この本人、理解できてないのにあがっちゃってる感覚は……。すっげく理不尽なのだよ!
 しかも彼は思春期ってことわかってないのですよ。わたしは思春期のことを知っててわからない、彼は思春期のことを知らないのに、わかってるような素振りをみせる。うごー、複雑すぎるのだ。
 あのね、もう怪奇現象なのだ。これは京極堂大先生のご登場なのだ。あの作家菊池秀行先生も、まさかの展開に失笑するのだ!
「穿《うが》った文学少女をなめるなよー。実際に三つ編にしてハイセンスな黒縁眼鏡かけて、図書館に篭ってやる」
「おーい、いきなりお前なにいってんだよ。目がこえーよ、マジで」
 微かに彼の声が聞こえた。
「あぁ?」
 振り向いて彼をみた。彼は絶句していた。これは、さすがの文学少女のわたしでも表現しきれない、なんとも云えない彼の表情だった。たぶん、みた、っていうレヴェルではなく、すんげく彼を見据えていたのだろう……。
 ただ、できうる限りを尽くして分析にあたってみれば、そう彼は泣きそうなのだった。
「ごめん……なさい、っていうとおもったか、この馬鹿者ぉ! なにげにオトコ振《ぶ》って上から目線しやがってからに。わたしだってオンナなのだ。三十路も驚嘆するオンナっぷりなのだー。どーして三十路のオンナは思春期ってやつを飼い殺しにしているのかはわかんないけど、この歳でわたしはオンナなのだよー。わたしは、わたしは――」
 息切れした。酸素が足りないっす。
「ええい、この先わたしは由緒正しき三十路のオンナになってやるのだー」
 オーオーテンションマックスデスヨー。
 幽体離脱して背後霊のばーちゃんに決意の握手を求めてしまいそうですよー。
 そうだ。ばーちゃんなら喜んで握手に応じてくれるに違いないのだ。嗚呼、彼だって。
 彼はわたしの暴発に付き合ってくれてるみたいで、ぶんぶんって感じで首がもげるんじゃないかなー、ってなぐあいに首を縦に振りつづけていたのだった。
「握手」
「はいぃ?」
 いやーすごい。彼の表情がすんごいのです。浮気がばれて土下座したあげく、絨毯のうえを三六〇度転《ころ》げ回ったような、反省だけの、この面持ち。つんでれの幼妻(わたしの勝手な思い込みで)をもつ体育教師のキャバクラ事件での表情なのだ。まーこれも、思い込みの産物でもあるのだった。
 そうして、わたしは彼の目の前に手を押しだした。彼は、といえば、なにやら藁をも掴む勢いで、わたしのてのひらを両手で包むようににぎりったのだった。その彼のてのひらから伝わるあたたかな感触がどうのこうの、っていうのはまーあるんだけど、それはいいじゃないですか。それよりも、わたしが彼に対してむちゃくちゃにしてしまったなぁー、なぁんて悪振っている自分が居て。その自分の恥かしそうにしているさまが、いやーわたしチャーミングですねーと自画自賛しているあたりが、救いようのないどっぷりオンナだとおもいました。
 反省はしたけどね、反省の色はないんです。なぜなら――。
 スキナンダヨー。ツンデレデレデレナノデスヨー。デレ、ガ多メナダケデ嘘ジャナイデスヨー。
「つんが、多いほうが正解だとかいうなってばさー」
「お嬢、なんもいってないっす!」
 もう彼は脅えきっているのだった。
「あっ、でも、お嬢は嬉しいかも」
「じゃあ、いまからそう呼ばせて頂きます」
「うん!」
 あーだめだ。めっちゃわたし喜んでいるのさー。うほっニヨニヨがとまんない。うん! とかいっちゃって、ばーかーだーねーわたし。これは、あんにゃろのせいにするのに、精一杯だった。
「じゃー帰りましょうか」
「おう」
 そういって包み込まれていた彼の手がすーっと離れた。そして間髪入れずにわたしの指の股に彼の肉厚の指が差し込まれた。しっかりと手が重なりあう、互いのてのひらの付け根がしっとりと密着するのだった。
 なんだこのエロさは! ちょっと彼の汗ばんだてのひらに不快感があったんだけど、それを寛容する気持ちが出来あがっていた。
 それもこれも、あんにゃろうに以下略するのだ。
 それから彼はわたしの家の前まで送ってくれて、彼は笑顔と恐怖心とをないまぜにして帰っていったのだ。実は彼の家は、公園よりわたしの家から反対方向だったらしく、なにもいわずに送ってくれていたのだった。
 わたしは関心して、彼をもっと好きになってもいーんじゃないかなー、とかおもったりして。しかしながら、どーしてこのオトコは、こんな扱いづらい文学少女を好きになってしまったのかなー、なんて不憫に感じてみたり不思議におもってもみたり。まぁ、彼もあんにゃろのせいでキスするわおっぱい揉むわで、お互い被害者ってことで、仲良くすればいーんじゃなかろーか、と。
 背後にいるだろうばーちゃんに、わたしにも彼氏ができたぜーめちゃめちゃドキドキするんだよー、と報告したのだった。
 自分の部屋に入って、今日の発端になった例の、オンナ三十路を越えてからが勝負でしょう、をひらいた。
 これにあんにゃろーの秘密が隠されている、とわたしは意気揚々だったのだ。三十路による思春期の飼い殺しかたが書いてあろう文庫本にあたって、期待と興奮の真っ只中だ。
 しかし……。
 気の無い男性を振り向かせるには目尻を細く伸ばして眼力で狩る、とかいわれてもさーっぱりわからなかった。
 なんだったら、SM入門編の教本みたいな内容に、唖然を通り越して呆然としてしまったのだった。
 うぅぅ、うぅぅ。今日はすんげく疲れたのだ。しょうがないので、期待はずれの教本をリヴィングのテーブルに置いて寝ることにした。明日、おかーさんに読ませてやろうとおもう。それからあんにゃろーのことを、おかーさんからききだすのも一つの手なのだ。
 早々《はやばや》と二一時前にベットへ潜りこむ。明日、彼が思春期に任せてしでかしたことの間違いに気づいて、取り消しを求めてくるかもしれない。やり直しはともかく取り消しは失礼極まりないのだ!
 明日に備えて、彼を言いくるめて、論破するべく、思案をはり巡らせるのだった。
  1. 2008/08/24(日) 21:59:27|
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